(※画像はイメージです/PIXTA)

令和2年(2020年)度の税制改正で、富裕層の有効な税金対策のひとつだった国外不動産を活用した節税策に規制が入った。もはや米国不動産は、魅力的な投資対象ではなくなってしまったのか? 元特別国税調査官(大阪国税局)の中谷義宏税理士に話を聞いた。

「トータルの収支」で考える、米国不動産の投資効果

では、個人において、米国不動産に投資する意味は完全になくなってしまったのだろうか。

 

「海外不動産の投資効果は、『トータル収支』(賃貸期間中の各年の損益と税金、売却時の損益と税金)がプラスになったのかどうかで考える必要があります。最初の4年間で多額な減価償却費を計上し、計上した期間は劇的な節税ができたかもしれませんが、その後(5年目以降)がどうであるのかが、とても大事です。

 

空き状況が続いて、賃貸収入が思うように入ってこない……売却したが、思うような金額で売れなかった……このようなお話は、海外不動産投資をされた方から時折お聞きしますが、節税はできても、購入から売却までのトータル収支で効果がなければ、いかがなものでしょうか……節税した意味も無くなるのではないでしょうか……」(中谷税理士)

 

「米国の中古物件は築年数が古くても、しっかりと維持管理された物件を購入することで、値上がり期待が大きく、物件次第では大きな売却益(キャピタルゲイン)や、購入してから売却するまでの賃料収入(インカムゲイン)が見込めます。

 

税制改正前は、米国不動産を6年目ほどで売却すれば、『トータル収支』で十分な投資の効果が得られるケースが多かったようです。

 

税制改正後は、『トータル収支』に効果が出るまでの期間は長くなりますが、それでも8~10年程度保有すれば、十分に投資効果が表われる可能性は高いと考えます」(中谷税理士)

 

中谷税理士によると、「トータル収支」の結果には、売却時の税金が大きく影響するという。

 

税制改正後、減価償却費は、「簡便法」を使用しないとなれば、新築物件(住宅用)を購入した際と同様の耐用年数「22年」を使用して計算することになる。税制改正前に比べ計上できる累計の減価償却費の額は大きく減少するが、反対に建物の簿価が多く残ることになる。

 

そして、売却時だが、不動産の売却(譲渡)所得の計算上、建物や土地の簿価価額は、取得費として必要経費に算入する。

 

税制改正前(簡便法の適用)では、建物の簿価は減価償却費で費用計上しているので、取得費に計上するのは土地の簿価のみであった。

 

税制改正後(耐用年数22年適用)では、10年経過していても建物簿価は半分程度残っており、土地の価額とともに経費に計上できることになる。つまり、税制改正前(簡便法の適用)に比べ、譲渡所得の金額が大きく減少することとなり、税金も大きく減少することになる。

 

「節税効果の減少」があっても「売却時の税金の減少」を踏まえて「トータル収支」を考えた場合、税制改正前での投資の効果(6年目)に、税制改正後での投資の効果は、10年程度で追いつくことが可能といえる。

 

参考だが、少しでも節税効果を出したいという人のために取得費をさらに細分化して分別する「コスト・セグリゲーション」という減価償却の計算方法を利用する動きも出ている。コスト=取得費、セグリゲーション=分別という意味で、これは、建物を一個の固定資産として計上するのではなく、建物本体から構造物や付属設備(電気設備、給排水設備、ガス設備など)などを分けて計算する方法だ。

 

上述したように、建物(木造 住宅用)の耐用年数は22年だが、付属設備などは10年前後と短いため、建物を細かく分類することによって、1年当たりの減価償却費を早期に多く計上することが可能だ。中谷税理士によると、「内訳を示す正確な報告書を不動産鑑定士などから用意できるのであれば、利用を検討してみても良いでしょう」とのこと。

 

資料提供:オープンハウス
[図表2]コスト・セグリゲーションのイメージ 資料提供:オープンハウス

米ドル資産の所有により「分散効果」が得られる

「特例」の施行によって、個人所得税の節税効果は薄れたものの、日本の不動産と違って中古でも値上がり益が期待できること、さらに人口増加や潜在的な経済成長力とともに家賃相場も上がっていることから、中谷税理士は「米国不動産の投資対象としての魅力は、まったく色あせていないと思います。個人の方の場合、シンプルに『投資型』と見ていただければいいのではないでしょうか。実際、コロナ禍以降も米国の住宅需要はまったく衰えていないようですし、むしろニューノーマルな働き方が浸透したことで、より広い家への住み替えや移住が進み、住宅市場はますます活況を呈しているようです」と話す。

 

中谷氏は米国不動産のメリットとして、十分なキャピタルゲインやインカムゲインが見込めることのほかに、基軸通貨である米ドル建ての資産を持つことで資産分散効果が期待できる点を挙げる。

 

「もちろん、その裏返しとして為替変動リスクが存在し、ハリケーン被害のような災害リスクも想定されます。あくまで不動産投資として考えていただき、様々なリスクが、他の投資商品と同様に存在することは認識してください。

 

また、どんなに有望な市場でも、物件を選び間違えると十分な利益が得られなくなることもあります。

 

米国不動産だから、すべての物件で満足のいく投資の効果が得られるとは考えないでください。これは国内不動産と同様だと思います。大事なのは物件ではないでしょうか。物件の質は、安定した賃貸収入、売却額などにも非常に影響するでしょう。

 

そのためにも、物件選び、契約関連の手続き、物件の管理をしてくれる業者は慎重に選んでいただく必要があると思います。投資は買って終わりではなく、買ってからがスタートです。信頼できる業者を選ぶことが投資の効果を最大に生み出す一番のポイントではないでしょうか」

 

 

中谷 義宏

中谷義宏税理士事務所

 

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