(※写真はイメージです/PIXTA)

小売業界全体が積年の課題に対して、デジタルコマースやデータサイエンス、体験型の店舗デザインといったかたちで、ゆっくりではあるが重要な進歩を遂げつつあったように見えた。新型コロナは、最初、かすかな兆しだったが、これが徐々に大きくなって巨大な津波となり、人も経済も惨憺たる状況にい追い込んでいく。わずか数カ月後には、世界の小売業界がほぼ例外なくロックダウン状態に突入した。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

書籍のテーマを変更「新型コロナウイルス感染症」

全米小売業協会が毎年開催しているニューヨークシティの店舗最前線視察ツアーでは、テキサス州発のスタートアップ企業である「ネイバーフッドグッズ」や新時代の玩具ストアの体験を売りにする「キャンプ」、ギャラリーと小売りとイベントスペースを融合した独自のセンスが光る「ショーフィールズ」など、斬新な体験型コンセプトの視察を企画していた。

 

どれも大変有望なもので、長年、迷走する小売りの世界で変化を提唱してきたごく一握りの人間としては、小売り革命がようやく浸透し始めたことに大きな手応えを感じていた。小売業界が目を覚ましたかに見えた。

 

私は、2019年後期には新しい本を書こうと心に決めていた。アートと小売りに共通するある要素が徐々に頭をもたげてきていて、そこに光を当てようと思ったからだ。12月31日には序章をしたためていた。

 

実はその2週間以上前に、1万1000キロ以上離れた中国の政府高官が、人口1100万人を擁する港湾都市・湖北省武漢で異常な肺炎の症例が数件見られるとWHO(世界保健機関)に通報していた。後にわれわれは、漏ろうえい洩した中国政府の内部文書から、同ウイルスの最初の徴候が11月半ばにはすでに表面化していた可能性があることを知る。

 

ご多分に洩れず、私もこのニュースを軽く受け流していた。中国の保健衛生当局が適切に封じ込めるだろうと思い込んでいたからだ。中国にしても初めての経験ではないし、みんなが常識的に行動して手洗いを励行すれば、たちまち平常どおりに戻ると考えていたのは、私だけではないだろう。

 

欧米の人間は、過去20年間によその国でウイルス大流行のニュースを耳にしてもすっかり慣れっこになっていて、自分たちの暮らしや仕事に深刻な影響が及ぶわけがないとタカをくくっていたのである。だから、あたかも〝どこかで見たことのある映画.のように受け止め、気にするそぶりも見せなかった。

 

だが、市場はそうした呑気な姿勢とは裏腹に反応していた。まったく同じ2019年12月31日、ダウ平均は前週末比183.12ドル安(マイナス0.6%)の2万8462.14ドルで取引を終えた。S&P500は18.73ドル安(マイナス0.6%)の3221.29ドル、ナスダックは60.62ドル安(マイナス0.7%)の8945.99ドルだった。結果論ではあるが、こんな相場にありがちなちょっとした下落が、実は最初のかすかな兆しで、これが徐々に大きくなって巨大な津波となり、人も経済も惨憺たる状況に追い込まれたと振り返ることになる。

 

ほどなくして、ひとくちにウイルスといっても、疫学の世界では、既知のウイルスと未知のウイルスの2つがあることも知られるようになった。平たく言えば、新型と呼ばれるウイルスは、過去に出現したことも調査されたこともないウイルスである。したがって治療法も抗体もワクチンも存在しない。まったくもって未知の怪物だったのである。

 

わずか数カ月後には、世界の小売業界がほぼ例外なくロックダウン状態に突入する。2020年3月3日、混乱が広がるなか、私は出版社に連絡を取り、執筆中の本のテーマを変えたいと申し出た。小売業界絡みで執筆に値するストーリーといえば、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)以外に考えられなかったからだ。

 

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

 

 

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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