(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年7月13日に公開したレポートを転載したものです。

大きな政府を必然とする要因(1)

■米中対決

産業技術支援に本腰を入れる米政府中国のハイテク覇権に対抗するには、米国も国家主導の技術産業育成が不可欠である。特にハイテク産業は巨額の初期投資が勝敗を決するので、初期コストを政府の支援により軽減することは必須である。まして国家ぐるみで露骨に産業育成をしてきた中国に、素手では対抗できなくなっている。

 

[図表5]世界4極名目GDP推移と見通し
[図表5]世界4極名目GDP推移と見通し

 

かつて2000年代の初めの10年間に、中国は国家資本の際限ない投入と補助金により、鉄鋼の世界生産シェアを10%台から57%(2020年)に引き上げた。

 

[図表6]世界粗鋼生産と中国シェア推移
[図表6]世界粗鋼生産と中国シェア推移

 

同様に、太陽光発電パネルでは日米欧の競争相手をなぎ倒し、世界シェア80%を獲得した。

 

今や液晶でも中国シェアは3割強と世界最大になっている。自動車用バッテリーでは10年前に設立されたCATLが、パナソニックを抜き世界一となった。さらに移動体通信機器では中国のZTE、ファーウェイ2社で世界シェア4割を握り、米日欧企業を大きく引き離している。

 

今や中国はハイテク立国に焦点を絞り、軽工業や重厚長大産業は海外へシフトさせ、最先端技術で世界を支配しようとしている。

 

トランプ政権は対中制裁関税、知的所有権遵守と違反への制裁、企業への国家支援の停止等を求めてきた。が、バイデン政権は一歩進めて、米国がハイテク、先端技術で中国を凌駕すべく、国家主導による壮大な産業支援を打ち出した。

 

米上院は6月8日、中国との技術競争に備える包括的な対中法案(『米国イノベーション・競争法案』)を可決した。超党派によるこの法案は、米国の技術や研究の強化に5年間でおよそ2000億ドルを充てる内容。

 

半導体・通信機器の生産・研究の強化に約540億ドルを支出する。うち20億ドルは、深刻な供給不足に陥っている自動車向け半導体に充てられる。上院案にはこのほかにも中国政府の支援を受ける企業が製造・販売するドローン(無人機)を購入できないようにする措置など、中国に関連した条項が盛り込まれた。

 

また、米国でサイバー攻撃や米企業からの知的財産窃盗に関与した中国の組織に幅広い制裁を義務付けるとともに、人権侵害に用いられる可能性のある製品について輸出管理の見直しを規定している。

 

大統領・ホワイトハウスと、両党の上院指導者の見解は完全に一致しており、下院の承認を経て成立するものと思われる。

 

曰く「我々は21世紀を勝ち取るための競争のさなかにある。(この法案で)スタートの合図が鳴った。後れを取ることは許されない」(バイデン大統領)、「何もしなければ、超大国としての米国の時代は終わる。われわれの目の黒いうちは、そうした時代は終わらせない。今世紀中にアメリカが中途半端な国になるのを見たくはない」(民主党上院トップのシューマー院内総務)、「中国共産党に勝利するのみならず、その脅威を利用し、イノベーションへの投資を通じてより良い米国を実現する」(共和党側の共同提案者であるトッド・ヤング上院議員)。

 

レモンド米商務長官は、この資金援助により、米国に7-10カ所の半導体工場が新設される可能性があると述べた。大きな政府による景気浮揚、国力高揚は覇権国対決においても重要な意味を持っている。

 

歴史的事例として、異論はあるかもしれないが、1930年代のドイツが想起される。1930年代のドイツにおいて、ヒットラーは台頭初期の場面でアウトバーン建設に代表される積極的財政政策を遂行し経済を活性化し、失業率を低下させ、国力浮揚を図った。

 

ヒットラーは世界で最も早くケインズ政策を採用したと言われている。この積極的財政政策がヒットラーに対する国民の求心力を高め、またドイツの優位性を著しく高め、大戦初期のドイツ軍の快進撃を可能にした。

 

現在中国は公的部門主導の需要振興策を遂行、中国の製造業市場規模は米国の2倍に達している。この巨大な国内市場が中国の競争力の源泉をなしている。米国は国内景気振興策で中国に負けるわけにはいかない、という側面がある。

 

注目のセミナー情報

【国内不動産】4月25日(木)開催
【税理士が徹底解説】
駅から遠い土地で悩むオーナー必見!
安定の賃貸経営&節税を実現
「ガレージハウス」で進める相続税対策

 

【資産運用】5月8日(水)開催
米国株式投資に新たな選択肢
知られざる有望企業の発掘機会が多数存在
「USマイクロキャップ株式ファンド」の魅力

次ページ大きな政府を必然とする要因(2)

本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧