その他 経営戦略
連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター【第33回】

近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて

~キャリード・インタレストに関する税務上の取扱いの明確化、海外投資家等特例業務・移行期間特例業務の創設を中心に~

国際金融センター日本キャリード・インタレスト

近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて ※写真はイメージです/PIXTA

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2021/7/5号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

四 海外投資家等特例業務・移行期間特例業務

海外投資家等特例業務・移行期間特例業務は、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」において議論され、2020年12月に公表された報告書(「第一次報告―世界に開かれた国際金融センターの実現に向けて―」)(以下「WG報告書」といいます。)において導入に係る提言がなされたものであり、いずれも、一定の投資運用業等について、金融商品取引業の登録をせずに届出のみで行うことを可能にするための制度となります。

 

海外投資家等特例業務・移行期間特例業務の創設を含む「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」といいます。)は2021年5月19日に国会で成立しておりますが、本稿作成時点において海外投資家等特例業務・移行期間特例業務に係る政府令は公表されていないため、以下に紹介する制度概要についても、詳細は今後の政府令案の公表を待つ必要があることにご留意ください。また、海外投資家等特例業務・移行期間特例業務のいずれも、基本的には適格機関投資家等特例業務(金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)63条参照)と類似した制度設計がなされていることから、以下では、適格機関投資家等特例業務との違いを中心に解説いたします。

 

なお、本改正法は公布日(2021年5月26日)から6か月以内に施行されるものとされています(本改正法附則1条)。

 

1. 海外投資家等特例業務の概要

 

(1)制度趣旨

 

①外国法人は特定投資家であり、また、外国居住の個人は、一定の資産を保有する場合、投資に関する一定の知識・経験等を有すると考えられることから、ファンドの主な投資家が外国法人等の場合は、一般投資家を顧客とする投資運用業と同等の規制とする必要性は低いと考えられること、また、②外国法人等から適格機関投資家となるための届出がなされることは必ずしも期待できず、適格機関投資家等特例業務を利用できない場合があることを踏まえ、海外法人や一定の資産を保有する外国居住の個人を主な投資家とするファンドについては、適格機関投資家による出資を必須とせず、出資人数の制限もない形で、「届出」により日本国内で業務を行えるよう、新たな類型を整備することとされたものです。

 

(2)制度概要

 

①海外投資家等特例業務の意義(金商法63条の8)

 

海外投資家等特例業務の構造は、基本的に適格機関投資家等特例業務と類似しており、組合型集団投資スキーム(金商法2条2項5号・6号)の自己運用及び自己募集・自己私募※13を対象とするものですが、その投資家が「海外投資家等」のみであることが必要となります。

 

※13 ただし、海外投資家等特例業務は自己募集を含む点において、自己私募のみが認められている適格機関投資家等特例業務とは異なります。

 

「海外投資家等」は、以下の者をいうものとされており、必ずしも適格機関投資家が含まれている必要はなく、また、出資人数の制限もない点において、適格機関投資家等特例業務に比して要件の緩和が図られているということができますが、自己運用を行う場合には、運用財産が主として(つまり、50%超が)非居住者から出資又は拠出を受けた金銭等である必要がある(逆に言えば、50%以下であれば、国内投資家も参加可能である)ことに留意が必要です。

 

(a)外国法人又は外国に住所を有する個人であって、その知識、経験及び財産の状況を勘案して内閣府令で定める要件に該当するもの。

 

(b)適格機関投資家(これに準ずる者として内閣府令で定める者を含む。)

 

(c)海外投資家等特例業務を行う者と密接な関係を有する者として政令で定める者

 

海外投資家等以外の者を投資家とする一定の二層構造ファンド(金商法63条の8第1項1号イからハ)が除外されている点や、自己募集・自己私募を行う場合には譲渡制限が必要となる点などは、適格機関投資家等特例業務と類似の設計となっています。

 

②要件

 

海外投資家等特例業務を行う場合には、あらかじめ、一定の事項を届出ることが必要となります(金商法63条の9第1項・2項)。また、一定の欠格事由が存在することも適格機関投資家等特例業務と同様ですが、その具体的な内容については、主として以下の点において、適格機関投資家等特例業務に比べてハードルが高いものとなっております。

 

(a)海外投資家等特例業務を適確に遂行するために必要な人的構成及び社内体制の整備が必要(具体的な要件は内閣府令で定められる予定)(金商法63条の9第6項1号ロ・ハ)※14

 

(b)国内における拠点の設置が必要(金商法63条の9第6項2号ロ・3号ロ)※15

 

(c)法人である場合は、(金融商品取引業者と同様に)主要株主について一定の要件を備える必要がある(金商法63条の9第6項2号ホ・ヘ)

 

※14 WG報告書(7頁・脚注16)においては、「通常の投資運用業者については、金融商品取引業を適確に遂行するための人的構成を有し、必要な体制整備を行うことが参入要件(欠格事由)とされているところ、本件新たな特例においても、適切な人的構成を有し、必要な体制整備を行っていることを法令上手当てすることが適当と考えられる」とされています。

 

※15 具体的には、法人の場合は、外国法人であって国内に営業所又は事務所を有しない者が、また、個人の場合には、外国に住所を有する者(適格機関投資家等特例業務では、代理人を定めていれば、外国に住所を有する者でも可)が、それぞれ、欠格事由とされています。この点については、WG報告書(8頁・脚注9)において、「海外の投資運用業者の日本への受入れを促進する趣旨や後述の当局による監督対応等の必要性の観点を踏まえれば、参入する事業者に対し、日本国内における拠点設置を求めることが適当と考えられる」との説明がされています。

 

③行為規制(金商法63条の9第8項)

 

基本的に、適格機関投資家等特例業務と同様であり、広範な行為規制が適用されていますが、海外投資家等特例業務には、上記②(a)と同様の趣旨から、金商法35条の3(業務管理体制の整備)も対象とされている点に留意が必要です。

 

2. 移行期間特例業務の概要

 

(1) 制度趣旨

 

「海外規制の下で現に海外の資金のみを運用する事業者が、本邦市場に参入する場合、現行制度上、登録手続に一定の時間を要するが、海外規制や業務実績(トラック・レコード)を勘案した参入手続を整備することにより、そのような事業者の本邦市場への受入れを促進する」ことが可能となることから、「海外の資金のみを運用する事業者が、海外で一定の業務実績(トラック・レコード)があり、一定の海外当局による許認可等を受けていることを勘案した上で、日本で「登録」等を得るまでの一定の期間に関し、海外で既に行っている投資運用業等について、「届出」により、引き続き日本国内で業務を行えるよう、新たな特例を整備」したものであり

 

(WG報告書(7頁))、海外運用事業者の日本参入を促進するための政策的な制度と位置付けられております。

 

(2) 制度概要

 

① 移行期間特例業務の意義(金商法附則3条の3第1項・5項)

 

移行期間特例業務の主体は「外国投資運用業者」であり、その定義は「外国の法令に準拠し、外国において投資運用業を行う者」(金融商品取引業者、登録金融機関、適格機関投資家等特例業務届出者及び海外投資家等特例業務届出者を除く。)とされています。移行期間特例業務は、かかる外国投資運用業者が、国内に設ける営業所又は事務所において、以下の行為のいずれかを業として行うこととされています(基本的には、(a)海外拠点において行っている運用業務と同様の運用行為、及び、(b)その自己の運用しているファンドの投資勧誘行為ができるということになります。)。

 

(a) 外国の法令に準拠し、当該外国において行う投資運用業に係る以下の行為(運用行為)

 

(ⅰ) 投資一任業務

海外投資家等を相手方として投資一任契約に基づき行う投資一任業務(金商法2条8項12号に掲げる行為)

 

(ⅱ) 外国投資信託委託業務

海外投資家等のみが投資家である外国投資信託の運用業務(金商法2条8項14号に掲げる行為)

 

(ⅲ) 外国ファンド自己運用業務

海外投資家等のみが投資家である外国籍の組合型集団投資スキーム(金商法2条2項6号)の自己運用業務(金商法2条8項15号に掲げる行為)

 

(b) 上記(a)に掲げる行為に関する以下の行為(投資勧誘行為)

 

(ⅰ) 投資一任業務に関する投資勧誘行為

上記(a)(ⅰ)の行為に関して海外投資家等を相手方として行う、外国投資信託の受益証券(金商法2条1項10号)、外国投資証券(金商法2条1項11号)又は外国籍の組合型集団投資スキームに係る権利の募集の取扱い又は私募の取扱い

 

(ⅱ) 外国投資信託委託業務に関する投資勧誘行為

上記(a)(ⅱ)の行為に関して海外投資家等を相手方として行う、外国投資信託の受益証券の募集又は私募

(ⅲ) 外国ファンド自己運用業務に関する投資勧誘行為

上記(a)(ⅲ)の行為に関して海外投資家等を相手方として行う、外国籍の組合型集団投資スキームに係る権利の募集又は私募

 

また、外国投資運用業者の子会社が、国内の営業所又は事務所において、親会社である当該外国運用業者を相手方として行う投資一任業務についても、移行期間特例業務に関する規定が準用されます(金商法附則3条の3第7項)。

 

上記の「海外投資家等」は、(政府令で定められる内容によりますが)海外投資家等特例業務における定義とは異なっており、基本的に国内投資家を含む適格機関投資家等は除かれていることに留意が必要です(金商法附則3条の3第6項)。具体的には、以下のとおりです。

 

(a) 外国法人又は外国に住所を有する個人

 

(b) 移行期間特例業務を行う者と密接な関係を有する者として政令で定める者

 

(c) 上記(a)(b)に掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者

 

海外投資家等以外の者を投資家とする一定の二層構造ファンド(金商法附則3条の3第5項1号イ(1)から(3))が除外されている点や、投資勧誘行為を行う場合には譲渡制限が必要となる点などは、適格機関投資家等特例業務・海外投資家等特例業務と類似の設計となっています。

 

② 要件

 

移行期間特例業務を行う場合には、あらかじめ、一定の事項を届出ることが必要となります(金商法附則3条の3第1項)。また、一定の欠格事由(上記1(2)①(a)から(c)の各事由も含みます)が存在することも適格機関投資家等特例業務・海外投資家等特例業務と同様ですが、移行期間特例業務は、上記(1)制度趣旨のとおり、「海外の資金のみを運用する事業者が、海外で一定の業務実績(トラック・レコード)があり、一定の海外当局による許認可等を受けていること」に依拠した特例であることから、それらの趣旨を踏まえ、以下の要件が追加されています。

 

(a) 外国(投資者の保護を図る上で我が国と同等の水準にあると認められる投資運用業を行う者に関する制度を有している国又は地域として内閣府令で定めるものに限る。以下同じ。)の法令の規定により当該外国において投資運用業を行うことにつき金融商品取引業の登録と同種類の登録(当該登録に類する許可その他の行政処分を含む。)を受けていること(金商法附則3条の3第3項1号イ)

 

(b) 外国の法令に準拠し、当該外国において投資運用業を開始してから政令で定める期間が経過していること(つまり、一定のトラック・レコードがあること)(金商法附則3条の3第3項1号ロ)

 

(c) 主として株式・新株予約権その他の政令で定める有価証券に対する投資として運用対象財産の運用を行うものでないこと(金商法附則3条の3第3項1号ヘ)※16

 

※16 実際に対象となる有価証券は政令の公表を待つ必要がありますが、「ファンド全体として主な運用対象が海外有価証券であること(ファンド全体として運用対象とする国内有価証券の割合が50%未満であること)等を勘案する」ものとされているため(WG報告書(7頁))、国内の有価証券が列挙されることになるものと予想されます。

 

③ 行為規制(金商法附則3条の3第4項、金商法63条の9第8項)

 

基本的に、海外投資家等特例業務の規定が準用されておりますが、投資一任業務等も移行期間特例業務の対象であることに鑑み、金商法38条の2も含められています。

 

④時限措置

 

移行期間特例業務は、あくまで政策的な目的で創設された時限措置であるため、一定の期間制限が設けられております。具体的には、移行期間特例業務に係る届出は、本改正法施行日から5年以内に行う必要があり(金商法附則3条の3第2項)、かつ、当該届出がなされてから5年間が経過するまでの期間のみ業務が実施可能となります(同条1項)。

 

 

河俣 芳治

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

下田 顕寛

西村あさひ法律事務所 弁護士

 

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2004年弁護士登録。2002年慶應義塾大学法学部卒業、2011年ボストン大学ロースクール卒業(LL.M.(Banking & Financial Law))。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2011年から2012年まで三菱UFJ銀行米州法務室(在ニューヨーク)出向。現在、西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。投資ファンドの組成を含む金融取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を主要な業務分野とする。

【主な著書等】
『資金調達ハンドブック〔第2版〕』(共著、商事法務、2017年)、『ファイナンス法大全(上)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)など

著者紹介

西村あさひ法律事務所 弁護士

2007年弁護士登録。2004年慶應義塾大学法学部卒業。投資ファンドの組成・運用、ベンチャー・ファイナンスその他の各種エクイティ・ファイナンス、アセットファイナンス、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、買収ファイナンスなど、各種の金融取引を幅広く行うとともに、金融機関における各種金融関連規制を取り扱う。2018年4月から2020年9月まで、金融庁総合政策局総合政策課において勤務し、資産運用業及びFinTech関連業務に従事。

【主な著書等】
『ファイナンス法大全(上)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)、『ファイナンス法大全(下)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)など

著者紹介

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河俣 芳治
下田 顕寛

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