現代アートを知的なゲームとして位置づけた
作品は、ドア越しに眺めることができる光景がメインになりますが、ドアや窓を含めた外観も作品の一部です。
ちょうど少し腰をかがめた位置にふたつののぞき穴があり、それを覗くと、ドア越しには壊れたレンガ壁が見え、先には深く暗い森が広がっています。
裸体の少女が枯れ枝の上でこちらに両足を広げて寝ていて、顔は手前のレンガの壁に遮られて見ることができず、表情をうかがい知ることができません。その姿からは生きているのか死んでいるのかもわかりません。左手にはガスライトを持ち、生々しい裸体を晒しています。
古い木製のドアに額を付けて一心にその光景を眺める観客は、まるで「のぞき」行為を夢中で行っている変質者を連想させます。のぞいている本人も、それを眺める他人も、どこか後ろめたい気分にさせられるのです。
「遺作」は、《モナ・リザ》を下敷きにした作品で、《モナ・リザ》を規範する西洋美術に隠された男性優位の視点や欲望について作品化したものといえます。
デュシャンの作品は、観客を含む関係の中で成立しています。あらかじめデュシャンが用意した答えがあるわけではなく、作品を挟んで想像を膨らませていくことができるのです。
このように頭を使う、あるいは対話を生む、知的なゲームとして現代アートを位置づけたのがデュシャンです。
現代アートの方向を決定づけた三人の巨匠、マルセル・デュシャン、ヨーゼフ・ボイス、アンディ・ウォーホルです。三人三様で、それぞれが特徴的です。現代アートを鑑賞する上ではスタンダードともいえるアーティストなので、今日のアートを大掴みするときに知っておくと便利です。
秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授
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