(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘氏の『実例から学ぶ 同族会社法務トラブル解決集』(株式会社ぎょうせい)より一部を抜粋・編集し、2代目と中継ぎ社長で株式譲渡の有効性を争った事例から、生前の事業承継対策の大切さについて解説します。

先代の思い届かず…2代目社長の悲惨な末路

1.はじめに

 

出資者である株主の責任が、その有する株式の引受価額を限度とされる株式会社においては(株主有限責任の原則:会社法104)、これにより会社倒産のリスクを転嫁される会社債権者保護のため、出資の払戻しを伴う株主の退社が認められない。

※1株当たりの金額のこと

 

その結果、株主の投下資本の回収方法は、出資持分である株式の譲渡によらざるを得ない。このため株式の自由譲渡性は、投下資本回収の方法として保障されなければならない(会社法127)。

※経済的価値を有する債権、物件、知的財産権の事

 

他方、現実を見れば、わが国の大多数の株式会社は、小規模な非公開会社・同族会社であり、かような会社では、むしろ、円滑な会社経営のため、好ましくない人物の手に株式が渡ることを防ぎ、できるかぎり、閉鎖性や同族性を維持していくというニーズがある。

 

この理念と現実との間で、折り合いを付けるのが、現在の会社法が規定する定款による株式譲渡制限なのである。

 

2.定款による株式譲渡制限

 

会社法は、株式の自由譲渡性を宣言しつつも(会社法127)、定款による譲渡制限を可能としている。譲渡制限株式の株主(譲渡人:会社法136)又は譲受人(会社法137)は、当該株式を他者に譲り渡そうとするときには、会社に対し、譲渡の承認をするよう請求することができる。

 

会社による譲渡の承認の決定は、定款に別段の定めがない限り、株主総会(取締役会設置会社の場合には、取締役会)の決議によらなければならない(会社法139-1)。

 

3.Caseの検討

 

Caseでは、譲渡がなされているにもかかわらず、肝心の会社による承認手続がなされていない。Y(=B)は、この手続の瑕疵(かし)を根拠として、株式譲渡が会社に対し効力を有しないことを主張している。これにより、乙総会の適法性、ひいては会社支配権の確保を図るのである。

※法律の予期するような状態が欠けていること

 

Bは、それに先立ち、株式譲渡をしているのであるから、自己がなした行為と矛盾するかかる主張を認めるべきではない。ただ、そのための理論構成をどうするかが問題である。

 

Caseの素材となった最高裁判所平成5年3月30日判決・民集47巻4号3439頁において、最高裁は、「商法204条1項ただし書(現会社法139-1本文)が、株式の譲渡につき定款をもって取締役会の承認を要する旨を定めることを妨げないと規定している趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護することにあると解される(中略)から、本件のようないわゆる一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合には、定款所定の取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解するのが相当である」旨判示している。

 

最高裁の意図は、譲渡制限の立法趣旨を踏まえ、その保護の対象とする者(譲渡人:本件ではB)自身が譲渡している以上、譲渡制限の適用はなく、当該株式譲渡は、(当事者間のみならず)会社に対しても有効であるとするものである。

 

かかる態度は、本件主張を斥けるべきとする前記の価値判断を、立法趣旨に遡った上での柔軟な解釈により実現するものとして、支持されよう。

 

4.事業承継の失敗例?

 

Caseからくみ取るべき教訓として、事業承継上の問題を指摘しておきたい。本Caseは、中継ぎ後継者であるXらと本来的後継者(2代目)であるBとの間の、いわば「跡目紛争」である。

 

2代目からすれば、先代の側近は煙たく、できれば斥けたいものなのであろう。Bの器量不足を感じたAは、そのためにXらを中継ぎとして考えたのであるが、残念なことに、そのための事業承継対策をせずに、Aは亡くなってしまった。

 

本Caseは、生前の事業承継対策がいかに重要であるかを示す例として、もっと読まれるべき事例であると考えている。

 

 

松嶋 隆弘

日本大学教授

弁護士

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