古臭い固定観念に縛られ、先細りを余儀なくされた「きもの業界」。しかしそこに、次々とヒット商品を生み出す女性経営者がいました。「業界の当たり前」をユーザー目線で見直すことで、多くのチャンスに気づくことができたのです。衰退産業で中小企業が生き残る「商品開発の秘訣」を紹介します。

商品のネーミングをコピーライターに任せるメリット

新感覚のメッシュ帯枕シリーズ「空芯才(くうしんさい)」、涼しくてラクなタンクトップ型和装ブラ「くノ一涼子(くのいちすずこ)」、特殊な形状の着物用帯板「べっぴん帯板」……。これらはすべて、当社のヒット商品です。

 

ものづくり企業のなかには自社の商品に、「TK-023」のような無機質な名前を付けるところがあります。しかし、こうしたネーミングは避けましょう。

 

商品名にこだわるべき理由は二つあります。

 

一つ目の理由は、覚えやすい商品名のほうがヒットしやすいからです。学生時代、歴史の年号を「なんと(=710年)立派な平城京」「鳴くよ(=794年)ウグイス平安京」のように覚えていましたよね。年号は無機質な数字として覚えるより、語呂合わせにして意味をもたせるほうがはるかに記憶に残ります。商品名も同様で、ユニークでユーザーの記憶に残るネーミングにするほうが、印象に残りやすいだけでなく、愛されるのです。売り場でも「涼子ちゃん、買いに来ました!」なんて呼称が飛び交います。

 

二つ目の理由は、商品の良さを端的に伝えられるからです。例えば帯枕の「空芯才」は、芯の部分が空洞になった「立体メッシュ」でつくられているため、通気性バツグンで洗濯してもすぐに乾き、いつでも清潔さを保てるのが長所。「空芯才」というネーミングには、その特長がしっかりと反映されています。その分、商品の良さをお客さまに届けやすくなっています。

 

筆者たちは当初、自分たちでアイデアを出して商品名を決めていました。当時のネーミングはまさに素人仕事で、マーケティングも何もない状態でなんとなく名付けていました。自社商品への思い入れが強すぎ、かえって商品の良さが伝わらなかったケースも少なくありませんでした。それで時には、発売後に商品名を変更したこともあったのです。そうした失敗を経た今は、プロのコピーライターにネーミングをしてもらっています。1つの新商品に対して最低でも3つ、多いときは7つくらいの案を出してもらい、そのなかから絞り込んでいくパターンが多いです。

 

このときに注意しなければならないのは、自分たちが属している業界に関する知識をある程度もち合わせているコピーライターに頼むことです。きものについてまったく知らないコピーライターに頼むと、ピントがずれた案が出てくることも多いからです。その点、筆者たちがお願いしているコピーライターさんは、きものの知識を十分にもっている方ですから、ユニークでインパクトがあるだけでなく、きものユーザーの心に刺さる商品名を提案していただいています。

「ユーザーの不便さ・不自由さ」の解消を最優先に

筆者は最初の自社製品である満点スリップを生み出したあとも、「私はこんな商品が欲しいなあ」という発想で次々と新商品を開発してきました。2021年春時点でのオリジナル商品は、約80アイテムに上ります。

 

当初はユーザー視点で「私が欲しいもの」を商品化してきましたが、いつの頃からか、欲しいものは大概、商品化できてしまいました。そこで次に取り組んだのは、お客さまなどから求められた商品をつくることでした。

 

ある日、親しいお客さまから夏帯用に透明の帯板が欲しいと頼まれました。羅織りのように穴の大きい夏帯だとメッシュでも見えてしまっていやだというのです。筆者自身はそれを気にする感覚はなかったのですが、せっかくお声を掛けてくれたのだからと製作する方向で動いてみました。便利なネット時代です。方々に投げ掛けてみるとつくってみてくれるというメーカーが現れました。試算してみたところ、一枚2600円にもなります。先のお客さまに聞いてみたら、全然高くないから、絶対売れるからつくってと言うのです。本当かなと思いましたが、まずはつくって販売してみたら、思いのほか売れました。

 

大きな冒険というのでなければ、試してみるのも面白いものです。

 

固定観念の強いニッチな市場こそ、臨機応変にユーザーの思いに沿うメーカーもないものです。面白がってみるというモードであれば、とにかく楽しいです。

 

 

髙橋 和江

有限会社たかはし代表

和装肌着製造メーカー「たかはしきもの工房」代表

きものナビゲーター

 

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衰退産業でヒット商品を生み出す4つの法則

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髙橋 和江

幻冬舎MC

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