施設入居している母親の要介護認定の更新の認定調査があった。都合が悪くて同席できなかったところ、1カ月半後送られてきたのは「要介護5」の判定。「要介護5」といえば、「食事や排せつ、入浴などの日常生活全般において全面的な介助が必要である」という状態。不服申し立てし、再調査した結果とは。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんが介護の日々を現場報告する特別編をお届けします。

不服申し立て、要介護度認定のやり直しの結果は

ばーばが、食事も排せつも着替えも全介助だったら「要介護5」の結果は納得ができる。しかし、ばーばは一人で食事はできる、それも箸を使ってだ(おかずが気に入らないと、お盆をひっくりかえすが)。

 

もちろん、普通に話せるし文字だって読める(気に入らないと話さないが)。車いすではあるが、手すりにつかまって立つことだってできる(気に入らないと立たないが)。入浴だって、ストレッチャー式の機械浴(寝たままの状態でお風呂に入れる機械)で入浴しているわけじゃない。

 

なのに、なんで!「要介護5」の利用料を支払わなくちゃならないの! に対して怒っているのだ。

 

ばーばは、病気(レビー小体型認知症)のせいもあるが、見知らぬ人に対しては警戒心をむき出しにし、口を利かない。おまけに、気分にムラがあり気に入らないと「帰る~、帰る~」としか話さなくなる。きっと認定調査の時もそんな風だったのだろう。

 

そこで、再度、普段のばーばを見てもらうために、「不服申し立て」という手段をとり、再度、要介護認定のやり直しをお願いすることにした。

 

毎日、母のケアをしてくださっている施設には申し訳ないが、要介護5の利用料は払いたくない。

 

調査の当日、何をされるのかしら? と調査員に敵対心むき出しのばーば。

 

「こんにちは、〇×です。この文字は読めますか?」と首から下げた名札を見せる調査員。

 

「読めません!」ばーばより先に私が答えた。

 

「お嬢様ではなく、お母様にお伺いしておりますが……」

 

内心、「知ってるわい」と思いながらも、

 

「あ! そうだったんですね。でも、文字が小さすぎて老眼の私には読めません」

 

この会話を聞いていたばーばは爆笑! 作戦成功。ばーばのテンションが上がってきた。

 

ついさっきまで一言も言葉を発しなかったが、調査員の質問に答え、手をあげて下さいと言われれば、手をあげ、言われていないのに足まで動かすサービスぶりだ。

 

 

こんな感じで、私は、調査中のばーばのテンションをあげることに注力した。おかげで、一度も「帰る~」を発せず認定調査は終了したのであった。

 

れから、1カ月半後郵送されてきた介護保険証には「要介護3」の文字。なんと、2段階も下がった。

 

調査員の前では「いいところを見せよう」と、本来はできないことも、認定調査員の前では「できます」と言い。介護度が低く出てしまうケースは良く聞くが、ばーばの場合はできるのに、なにもしなかった結果、介護度が上がってしまったという逆のケースだったのだ。

 

1カ月数千円の差ではあるが、何十年続くかわからない施設入居。実際にばーばは施設に入居して11年も経っている。月々数千円の差は、10年経ったら数十万円の差になるのだ。

 

次回の更新の際には、絶対に同席すると心に誓ったのである。

 

黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者

 

 

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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