(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化に伴い、遺産を引き継ぐ人がいない「相続人不在」のケースが増加しています。相続人がわからない場合、遺産は誰の手に渡るのでしょうか? また、遺品の取扱いなどはどうなるのでしょうか。民法がどのような手続を定めているのかを、落語を基に解説します。※本連載は、弁護士・森章太氏の著書『落語でわかる「民法」入門』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

コラム:「相続人不在」が国や自治体にもたらす影響

【国庫帰属】

相続財産が国庫に帰属すると聞くと、国の財政が豊かになるように思えますが、負担になることもあります。

 

例えば、老朽化した建物が国庫に帰属しても解体費用がかかるだけです。最近の例として、兵庫県の淡路島にある通称「世界平和大観音像」が令和2年3月30日に国庫に帰属することになりました。観音像は約100mの高さの巨大なものであり、所有者(被相続人)が死亡した平成18年以降閉鎖されていましたが、老朽化により近隣住民などに不安が生じていました。国は観音像の解体撤去工事を実施する予定です。

 

【所有者不明土地】

不動産登記簿謄本などにより調査しても所有者が判明しない、または判明しても連絡がつかない土地の存在が社会問題になっています。例えば、土砂崩れの危険のある土地が放置されていたり、災害後の復興の障害になったりしています。

 

所有者不明土地を減らすため、法務省の法制審議会が令和元年12月に公表した「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」では、検討事項として次の点などが挙げられています。

 

①土地の所有権を放棄できるようにすべきではないか

②遺産分割に期間制限を設けるべきではないか

③不動産の所有権の登記名義人が死亡した場合、相続人らに登記申請義務を課すべきではないか

 

【空き家】

総務省の住宅・土地統計調査(平成30年)によると、全国の空き家のうち半数以上(52.2%)が相続・贈与により取得したものになっています。

 

適切な管理が行われていない空き家が防災、衛生、景観などの地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしているため、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が平成27年に施行されました。

 

所有権(物権)は排他的な支配権なので、本来は所有者の同意なく建物を壊すことはできません。しかしながら、市町村長は、同法により、放置すれば著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等については、一定の手続を経たうえで代執行により解体することができます。同法施行後、令和元年10月1日までの4年半の間に累計196件の代執行が行われました。

 

分譲マンションの場合、解体するには原則として所有者全員の同意が必要になるので、1人でも反対すると解体できません。解体できないまま老朽化し、行政代執行により解体された事例もあります。

 

国土交通省によると、築40年超の分譲マンションが平成30年末時点で81.4万戸であるのが、令和10年末には197.8万戸、令和20年末には366.8万戸になることが見込まれています。今後、老朽化した分譲マンションの放置及び税金による解体が社会問題になるおそれがあります。

 

 

森 章太

東京中央総合法律事務所 弁護士

 

 

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