税務調査官の勘違い…亡父の「違約金600万円」が相続税を減らしたワケ【弁護士が解説】

税務調査官の勘違い…亡父の「違約金600万円」が相続税を減らしたワケ【弁護士が解説】

税金の申告で、税務当局から指摘が入ったとき「おかしい!」「間違ってる!」と思っても反論できない。そのような現状を問題視した弁護士の北村豊氏が執筆した『争えば税務はもっとフェアになる』(中央経済社)より、一部を抜粋・編集して、納税者の「債務の支払を拒否する理由」が有効になる理由を説明します。

納税者の「債務の支払を拒否する理由」が役に立つワケ

■納税者が用いた武器

 

本件において、納税者が用いた武器は、債務の支払を拒否する理由です。争点は、違約金の残金を支払う債務の履行が確実といえるかどうかでした。

 

税務当局は、お父さんは違約金の残金を支払う意思がなかったと主張しました。そのため、違約金の残金を支払う債務の履行は確実ではないというわけです。また、税務当局は、お父さんの相続人である納税者も、違約金の残金の支払を拒否して係争中だと主張しました。

 

確かに、請負会社は、納税者に対し、違約金の残金の支払を求めて訴えており、納税者も、請負会社の訴えを受けて立ち、裁判所で争っていました。しかし、審判所は、法的に履行を強制される債務については、債務者の履行の意思によって確実性が左右されるわけではないと判断しました。

 

また、納税者は、違約金の残金の債務そのものが存在しないと主張して争っていたわけではありませんでした。納税者は、裁判所では、請負契約を締結する前の請負会社の説明義務違反を理由として、損害賠償を求めていたのです。

 

そのため、審判所は、納税者が裁判所で争っていたとしても、違約金の残金の支払義務が消滅したり、履行の確実性が失われたりするものではないと判断したわけです。このように、納税者が債務の支払を拒否する理由を武器に、違約金の残金を支払う債務の履行は確実といえるという事実を決めたことが、本件の勝因といえます。

 

相続税の争いは、亡くなった方の財産・債務の有無や金額が問題となります。亡くなった方の財産を把握するのは、相続人である納税者にとっても厄介な作業です。それでもプラスの財産は相続人のものになりますので、頑張って探し回る気になるでしょう。

 

問題は、マイナスの債務です。相続人としては、亡くなった方の債務は存在しないほうが良いので、探し回る気が起きません。それゆえ、亡くなった方の債務は、債権者から請求されて初めてその存在に気がつくことも多いでしょう。

 

しかし、相続人は、亡くなった方と債権者との間の具体的なやり取りを知らないので、果たして支払ってよいものかどうか、すぐには判断がつかないことも少なくありません。まして、税務当局は、そもそも亡くなった方の債務の状況を知りません。相続人である納税者に対する税務調査を通じて、初めてそれがおぼろげに見えてくるわけです。

 

そうすると、相続人が債務の支払を拒否しているということになると、どうしても、それだけでその債務は確実とはいえないという判断に傾きがちです。

 

その点、相続人である納税者にとっては、この世にいないとはいえ身内の債務であり、債権者から支払を迫られている立場にあります。その債務の中身については、税務当局よりも詳しいはずです。

 

そのため、納税者は、債務の支払を拒否している場合でも、その理由を具体的に説明することにより、審査請求において納税者に有利な議論を展開できることがあります。

 

 

北村 豊

DT弁護士法人パートナー

弁護士・税理士・ニューヨーク州弁護士

 

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北村 豊

中央経済社

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