「実は発行済です」…裁判所での「ちゃぶ台返し」
3.本Caseの検討
最高裁は、無効説を採用することを明言したが、学説でいうところの無効説とは必ずしも同一の立場ではないようである。そこで本Caseに即し、裁判所の意図するところを考えてみたい。
判示からは、裁判所が、「差止請求権の実効性」を強く強調していることが分かる。このことを意識して、本Caseを見てみると、本Caseにおいて、Yは、裁判所の仮処分命令に反して新株発行を敢行したのみならず、そのことを、約1年後の第一審第8回口頭弁論期日まで隠している。
つまり遡る7回の期日において、Yは、(新株が発行されているにもかかわらず)「新株が発行されていない」ことを前提とした主張・立証を行っているのである。
しかも審理の最終局面にあたって、「実は発行しておりました」と「ちゃぶ台返し」をしている。このように、差止制度を無視するYの不誠実な訴訟遂行態度が、裁判所の心証に悪影響を与えていることが分かる。結論としては、前掲最判平成5年12月16日における無効説は、一種の裁判所侮辱的な発想を背景にしているものと理解できよう。
松嶋 隆弘
日本大学教授
弁護士
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