かつては富裕層しか手の届かなかったタワーマンション。今では棟数が増え、一般化してきました。多くの人が住み始めたことで顕在化したタワーマンションの問題点を作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を抜粋・編集して解説します。

タワーマンションは「垂直の街」…衝撃の世帯数

開発の原動力は、「容積率の緩和」という錬金術です。

 

敷地に建物を建築する場合、周辺環境への配慮や、安全性などの観点から建物の大きさが建築基準法で規制されています。「敷地面積」に対する「建築面積(建物を真上から見たときの外周で求めた面積)」は「建蔽率」で示されます。

 

建蔽率50パーセントなら敷地の半分の広さに建物を建てられます。そこに「容積率」が加味されてボリュームが決まるのです。

 

容積率とは、敷地面積に対する「総床(延べ床)面積」の割合です。建蔽率50パーセントで、容積率100パーセントなら建物を2階建てにして敷地面積と同じ総床面積の建物がつくれることになります。

 

容積率も建蔽率も、都市計画法の「用途地域」ごとに建築基準法で定められています。用途地域は、環境を守り、効率的な活動を行うための根本的な区分です。

 

たとえば用途地域が準居住地域で、1000平米の敷地に集合住宅を建てるとします。建蔽率50パーセント、容積率200パーセントとすると、最大で500平米の建築面積に、4階建て、総床面積2000平米の建物を建設できます。

 

その容積率が、300パーセントに緩和されたら同じ敷地で6階建てが可能となります。ディベロッパーにとって、これほどおいしい話はありません。売れる住戸がたちまち増えるのです。紙幣を敷きつめた4段重ねの重箱が労せずして6段に変わるようなもの。事業費に占める土地購入費の割合はぐんと小さくなります。

 

超高層マンションは、容積率緩和の賜物(たまもの)です。国の「総合設計」「特定街区」「高度利用地区」「高層住居誘導地区」等々の制度で容積率が緩められ、150メートル、200メートルを超えるマンションが建ちました。総合設計では、敷地内に「公開空地」を設けて「市街地の環境の整備改善に資する」と認められれば容積率の制限が大幅に緩和されます。

 

容積率緩和は、一度、手を出したらやめられない錬金術です。2000年の法改正では「空中権の移転」で「空間のボーナス」を受け取るしくみもひねり出されました。

 

空中権とは、用途地域で指定された容積率と実際に建っている建築物の容積率の差です。低い建物は容積率が余っているとみなされます。それを開発事業者が買い取って新しく建てるビルに上乗せするのです。JR東日本は東京駅の空中権を、新丸ビルやJPタワーなどの事業者に売って500億円を調達し、レトロ調の復元工事を行いました。

 

こうした手法で超高層マンションの容積率は、600パーセント、700パーセント……と緩和されてきました。

 

2019年3月、東京都新宿区は「西新宿三丁目西地区第一種市街地再開発事業」で、65階建て、高さ235メートルの超高層2棟の建設を都市計画決定しました。総住戸数は2棟で約3200戸。東京都下の奥多摩町(2675世帯)をしのぐ戸数です。もとは低層の木造住宅が密集し、細い路地が入り組んでいたところに「垂直の街」が2つ生まれるのです。

 

その容積率は、880パーセント! 際限がありません。再開発前の2倍に跳ね上がっています。

 

超高層マンションの建設は地域経済を活性化するのだから奨励していい、という意見もあります。しかし、タワーマンションは、ストローのように周辺の住宅ニーズを吸い上げます。

 

すでに東京都内で居住世帯が長期不在、あるいは取り壊し予定の空き家は約15万戸。そのうち非木造の共同住宅が4万7000戸を占めています。周りの空室率の高まりを後目に超高層が需要を吸い上げ続けたらどうなるか。危機のカウントダウンは始まっています。

 

 

山岡 淳一郎

ノンフィクション作家

東京富士大学客員教授

 

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