2020年3月、テキサスのトヨタは在宅勤務に切り替わると、パソコンの大型モニターとオフィスチェアを従業員に貸し出した。ゲームングチェア、そしてコロナ太りを防ぐためのアメリカ人の知恵「スタンディング勤務」も取り入れる価値はある。在宅勤務の課題や工夫をトヨタの事例とともに見ていく。※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

在宅勤務の環境整備は会社と国がやるべき

在宅勤務の生産性向上について、トヨタの人たちが「効果があった」と感じているのは通信環境の整備だ。それには誰も異論はないだろう。

 

問題はつまり生活環境を整備することだ。それには金がかかる。そして、会社はどこまで負担すればいいのか。

 

私は在宅勤務の執務環境整備については会社が金を出し、国も補助すべきだとはっきり思う。

 

まず、会社は最高の通信機器を貸与する。通信環境の設定、使い方については会社がきめ細かくサポートする。仕事に使った通信費はもちろん会社が払う。出社しなくなると通勤費、出張費が激減するわけだから、通信費を手当てするのは当たり前だ。

 

次に執務環境だ。

 

台所の片隅でパソコンを操り、プレゼン資料を用意するのは美談ではあるけれど、緊張感と集中力が増すとは思えない。

 

執務環境については快適に働くことのできる個室空間を用意するしかない。自宅の増改築をするなら補助する。また、社員の自宅近くにサテライトオフィスを用意してもいい。ビジネスホテルなどを利用するのならば、費用は会社が払う。加えて、国が補助する。

 

「環境整備はそれぞれの金で行う」となると、高額な給料をもらっていてもやらない人が出てくる。

 

それは、数字で見る限り、日本のビジネスパーソンの貧困化は決定的に進んでいるからだ。新型コロナ危機ではさらに進むだろう。

 

OECD加盟の主要国における実質賃金の推移を見ると、1997年の時点ではどの国も変わらない。その後、他の国は増加しているけれど、日本だけは減っていることがわかる。

 

1997年を100とすると、2016年の数字は次のようなものだ。

 

スウェーデン138.4、オーストラリア131.8、フランス126.4、イギリス125.3、デンマーク123.4、ドイツ116.3、アメリカ115.3。

 

日本は89.7。

 

加えて、財務省の見通しでは所得に占める租税負担率と社会保障負担率を合わせた国民負担率は2020年度で44.6パーセントになる。1975年のそれは25.7パーセントだったが、以後はおおむね上昇している。これも数年後には国民負担率は50パーセントを超えると思われる。

 

ちなみに北欧諸国の国民負担率は5割を超えていて、7割に近い国もあるが、おしなべて小学校から大学までの教育費が無料だったり、歯科を除く医療費が無料だったりする。しかも、高齢者への福祉政策も手厚い。日本は国民負担率は高いけれど、北欧ほど手厚い政策を行っているわけではない。

 

こういった状況では会社は従業員に「自費で部屋を改装して働け」なんて、到底、言えないのではないか。

 

会社の金と公費で環境を整えて、働く人間のストレスを軽減する。それは在宅勤務の生産性向上に必ず結びつく。

 

 

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

 

 

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