「ヘッジファンド」とは、株式市場が上昇局面のときでも下落局面のときでも様々な手法を駆使してプラスの収益を目指すファンドのことです。今回は、ヘッジファンドの運用資産の増やし方と守り方を見ていきます。※本連載は、渋沢栄一の5代目子孫、コモンズ投信株式会社会長を務める渋澤健氏の著書『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』(日経ビジネス人文庫)より一部を抜粋・再編集したものです。

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ヘッジファンドの「守り」とは、ショートによるヘッジ

ヘッジ(Hedge)の語源は、「生け垣」である。イギリスの作家、ビアトリクス・ポターの世界では、あのピーター・ラビットが作物を荒らさないよう畑の周りにヘッジを巡らせてある。しかし、現代資本主義の世界では、かわいい子ウサギから作物を守るのではなく、金融市場というオオカミから自分の資産を守らなくてはならない。

 

ただし、野生のオオカミと同様、マーケットには別に「善悪」の区別はない。マーケットが善か悪かは、それぞれの立場によって変わる。ピーター・ラビットの立場であればオオカミは恐れるべき「悪」であるが、ラドヤード・キップリングの『ジャングル・ブック』の少年であればオオカミは愛する家族である。

 

資産保有者の立場であれば、資産価値が上がれば「善」で、下がれば「悪」であるが、これはその保有者の都合に過ぎない。資産を保有していない立場であれば、資産価値が上がると機会損失の「悪」になるし、下がればより安く資産を購入できる「善」になる。

 

では、資産保有者の立場としては、どのように金融市場から自分の資産を「守る」ことができるのであろうか。

 

一昔であれば為替の固定相場、資金流出規制、資産流通規制等で枠を人為的につくり、金融市場を縛るという手法があった。ただし、これは国が実施するマクロ的な操作であり、個別レベルでできることではない。そもそもマクロ的に「流れ」を規制すると、別のどこかで悪影響のひずみが生じる場合がほとんどだ。

 

ヘッジファンドなど金融業界のプロフェッショナルが用いる「守り」の手法は、資産を保有し続けながらも、その一方で類似資産をショート(売り建てる)ことである。

 

この場合、金融市場が下落して保有している資産価値が下がって「損」をしても、ショートしている資産が安く買い戻せるので「儲け」になり、相殺される。これが「ヘッジ」だ。一方、保有資産をガチガチにヘッジしてしまうと、金融市場が上昇して保有資産の「儲け」が、ヘッジの「損」で相殺されてしまう。

 

したがって、ヘッジファンドマネジャーの「芸術的なセンス」とは、ヘッジ比率の微調整、あるいは売り建てるショートの類似商品の選別能力だ。

 

ショート・ヘッジの理想は、金融市場の上昇のときには、保有資産ほど値上がりせず、下落の時は保有資産より値下がりすることだ。この微妙な差異によって、長期的に収益を挙げられることがファンドの「α」(超過リターン)になる。

 

ただ、言うのは易しであるが、行うのは難しいのがショートである。買いのポジションは損失が限定されている。つまり、元本がゼロになることだ。それは、悲劇であるが、つぎ込んだ以上の損失を被ることはない。一方、利益の機会は理論的には青天井とまで言えなくても、リスク・リターンが非対称性となることが好ましい。

 

しかし、ショートの場合は、収益が限られている。売り建てた商品がゼロになること以上に儲けることはできないが、損失は理論的に無限だ。つまり、売り建てた金額以上の損失を被る可能性があり、リスク・リターンの非対称性が厳しいのだ。

 

だから、「ベストなヘッジはキャッシュだ」、つまり現金化することが万全な「守り」だということわざもあるぐらいだ。ただ、現金化しているときに、保有していた資産が上昇するようであれば、それは機会損失であり、また、現金にリスクがないわけではない。

 

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渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋澤 健

日本経済新聞出版

もし、渋沢栄一が現代に生きていたら、日本の持続的成長を促すファンドをつくっていただろう――。 大手ヘッジファンドを経てコモンズ投信を創業した渋沢家5代目が、自身のビジネス経験と渋沢家家訓を重ね合わせ、目指すべ…

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