高齢化、人口減少…全国で問題になっている空き家問題。大阪経済法科大学経済学部教授の米山秀隆氏の書籍『限界マンション 次に来る空き家問題』(日本経済新聞出版社)より一部を抜粋・編集し、空き家の活用と増加の背景について解説します。

賃貸住宅の供給過剰が生んだ「違法シェアハウス」

このように大都市では賃貸住宅が供給過剰になっている一方、住宅弱者向けの住宅供給は十分ではないという問題がある。この問題が顕在化したのが、数年前に大都市を中心に現れた脱法ハウス(違法シェアハウス)問題である。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

脱法ハウスは、マンションの一室やビルのワンフロアを薄い仕切りで2畳、3畳と区切り、窓もない部屋に住まわせるような物件である。こうした物件は、居住環境が劣悪な上、防災面でも危険なことから、問題が顕在化した後、根絶を目指して2013年9月に規制が強化された(準耐火構造の間仕切り設置を義務づけなど)。

 

こうした脱法ハウスが登場するのは、それに需要があり、ビジネスとして成り立つからである。そうした住宅でも住まざるを得ない人は、本来は、公営住宅の入居資格を持つような低所得者である。

 

しかし、公営住宅の供給には限りがあり、抽選倍率も高くなっている。このほか、低所得者には生活保護を受ける道もあるが、それには抵抗がある人も少なくない。脱法ハウスは、こうした需要を取り込む形で登場した。

 

現実に低所得者の需要があるとすれば、一定期間、家賃補助を受けることのできる仕組みがあれば、それを使って普通の民間賃貸物件に住めるはずである。家賃補助は低所得者が十分な所得が得られ、自力で入居できるようになるまでの支援となる上、民間物件の空室活用にもなる。

 

こうした仕組みは、まったくないわけではなく、リーマンショック後に創設された、失業者が一定期間家買補助を受けることのできる仕組みがある。

 

しかしこうした仕組みが十分ではないことが、低所得者向けの脱法ハウスが登場した背景にあると考えることができる。低所得者など住宅弱者向けの住宅セーフティネットについては、欧米では、行政が建物を建設して直接供給するのではなく、民間物件に入居する場合に家賃補助する仕組みが主流である。

 

ところが日本では、いまだ直接供給する仕組みで、家賃補助の仕組みが遅れているため、脱法ハウスがビジネスとして登場するに至った。

公的支援としての「家賃補助」による三大メリット

今後の日本では公営住宅の更新が財政的に難しくなっていくと考えられるが、それに合わせ、家賃補助によって民間物件を活用する形に徐々にシフトしていくことがひとつの考え方としてあり得る。これにはさまざまなメリットがある。

 

第一に、公営住宅を直接供給する場合には、施策を受けられる人の上限は公営住宅の数で制約されるが、家賃補助の場合はそうした制約はなくなる。制約がなくなる分、逆に財政負担が増える可能性もあるが、所得向上に向けた自助努力を促すため、期間を限定するという考え方もある。

 

第二に、施策を受けられる人が増えることで、脱法ハウスに住まざるを得なくなるということがなくなる。

 

第三に、民間賃貸物件の空室を有効活用できる。このように考えると、脱法ハウスの問題は、日本の住宅セーフティネットの貧しさと、それを今後、民間賃貸物件を活用した家賃補助主体の仕組みに再構築していく必要性を示していると見ることもできる。

 

なお、家賃補助に本格的にシフトしていくとすれば、今後、生活保護との関係を整理する必要は出てくる。

 

賃貸住宅が供給過剰になっている一方、住宅弱者も多数存在する大都市においてこそ、今後こうした仕組みの導入を検討していく必要性が高いと考えられる。活用を進めることで、管理放棄される賃貸物件を未然に減らすことができるようになる。

 

 

米山 秀隆

大阪経済法科大学経済学部教授

 

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限界マンション 次に来る空き家問題

限界マンション 次に来る空き家問題

米山 秀隆

日本経済新聞出版社

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