ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

その福祉用具のレンタルは本当に必要か

福祉用具のレンタルは1割負担だから高くはない。でも本当に必要か? ケアマネージャーや業者から勧められても必要と感じていなければ契約は先送りで良い。「夜の寝返りを2時間に1回してください」と言われたとき無理だと思った。それなら母の残存能力を使おうとベッドのレンタルを先送りにした。

 

理由は、母はまだ自分で動くことができたからだ。ベッドだと落ちると危険と察しているのか動かないが、布団だと180度回転していることがある。転倒リスクもないし、頑なにベッドは借りなかった。そしてついにベッドを入れたのだが、理由は私個人の身体への影響だ。

 

布団から車いすに移乗させるとき、母は全身の体重を委ねてくるため持ち上げるときに自分の膝を酷使していた。長年の無理がたたったのか痛くて仕方がない。このままだと自分が介護されるときに迷惑をかけてしまう。やはり自分の健康を一番に考えた方が良いことに今さらながら気づいた。

 

薬学部の娘が、研究テーマを〝コーヒーと認知症について〟に選んでいた。なんでもコーヒーの成分であるトリゴネリンが脳に良いらしい。毎日飲むとアルツハイマーの予防になるという。また、コーヒーのフェルラ酸は神経細胞によく転倒防止になるらしい。

 

建築学部の息子が、都市づくりに興味を持った。高齢になっても障害があっても暮らしやすい街は需要がある。母が認知症であることが子どもたちの大学での学びに影響しているのは間違いない。きっかけは何であれ、子どもが世の中の役に立つ働きをしてくれれば、母が認知症になった甲斐があるというものだ。

 

うつ病の人に頑張ってね、との声掛けは良くないと聞いた。けれども話をしっかり聞いた上での頑張ってね、は意味が違うと思う。介護者も一緒、特に在宅同居介護をしていると気持ちに浮き沈みがある。私も介護を経験していない人から、お母さんを大切にしてあげてね、とメールをいただいたときには心が折れた。直前に母に対し怒っていたからだ。送った人に悪意はなく最後の締めの一文にすぎない。

 

また職場では「医者に連れて行かなかったの、冷たいな」と言われたこともある。介護家族にも色々と事情はある。そんなの知ったことかと思うかもしれないが起伏があることはわかってほしい。必要以上に家の介護に踏み込んでくる人を避けたくなったときもある。

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親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

渋澤 和世

プレジデント社

高齢化が進む日本では現在、介護ストレスによる介護疲れが大きな問題だ。そこで本書では、仕事や育児との両立を前提に、「完璧な介護」ではなく「頑張りすぎない介護」を提案する。 正社員としてフルタイムで働きながら、10年…

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