判断能力が衰えたあとの本人の財産管理を助ける制度に、「後見制度」と「家族信託」があります。今回は、2つの制度の違いを7つの視点から見ていきます。※本連載は、海老原佐江子氏の著書『家族に迷惑をかけたくないあなたが認知症になる前に準備しておきたいこと』(WAVE出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

家族信託の場合、悪質な訪問販売の取り消しは不可

⑤訪問販売に対処できるか

「法定後見」では、本人が悪質な訪問販売にひっかかって不要な高額商品を購入したなどの場合に、成年後見人が取り消せます。しかし、「任意後見人」や「家族信託の受託者」には取消権がありません。

 

⑥費用はどのくらい差が出るか

「法定後見」では、成年後見人への報酬は裁判所が金額を決定します。専門職が後見人に選任された場合は、本人の財産の額などに応じて月2~5万円の報酬がかかります。成年後見人が遺産分割や不動産の売却などをした場合には、それに応じた報酬も必要です。

 

家族や親族が成年後見人に選任された場合は、無報酬でもかまいませんが、成年後見監督人が選任されると月1~3万円(金額は裁判所が決定します)がかかり、これらはすべて、本人の財産から支払われます。

 

一方、「任意後見」では、報酬は任意後見契約の中で自由に決めることができます。家族や親族が任意後見人になる場合は無報酬でもかまいません。しかし、任意後見の場合、任意後見監督人が必ず選任され、月1~3万円(金額は裁判所が決定します)がかかります。

 

「家族信託」の場合も、報酬は信託契約の中で自由に決めることができます。受託者が家族や親族のときは無報酬でもかまいませんが、信託会社に依頼すれば、その会社の規定の報酬額が必要になります。

 

また、受託者の業務内容を監督する「信託監督人」を専門職などに依頼する場合も、その報酬額は信託契約の中で定めます。

 

⑦裁判所の監督はあるのか

「法定後見」では、家庭裁判所が成年後見人の監督に関わります。成年後見人は年に1回、報告書を裁判所に提出し、裁判所はその内容を確認します。また、自宅不動産の処分など重要な行為には裁判所の許可が必要で、成年後見人は必要に応じて裁判所に連絡・報告をしながら業務を進めます。

 

「任意後見」の場合は、任意後見監督人が必ず付いて任意後見人を監督します。任意後見監督人は、任意後見人の業務の状況を裁判所に定期的に報告します。

 

しかし、「家族信託」には裁判所が関与する仕組みはありません。信託契約の中で、信託監督人を置くかどうかも、当事者が自由に決めることになります。したがって、裁判所が関与しない分、不正行為が行われるリスクや、家族や親族間での争いが起こる可能性が高まります。

 

家族信託を利用する場合には、信頼できる家族を受託者にする場合でも、信託監督人として客観的な第三者である専門職を置くことをおすすめします。

 

【図表1】後見制度と家族信託の違い

 

海老原 佐江子

城南かがやき法律事務所 弁護士

 

 

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家族に迷惑をかけたくないあなたが認知症になる前に準備しておきたいこと

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海老原 佐江子

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