2021年3月に開催された全国人民代表大会と政治協商会議で注目された、2021年の経済運営と第14次5ヵ年規画。昨年コロナで成長率が落ち込んだことを奇貨として、バブル再燃や債務膨張を抑える機会にしようとする意図がうかがえる。どういうことか。2021年経済運営や5カ年規画から読み解いていく。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

5カ年規画の主要指標を「5つの分野」に分類

5ヵ年規画の主要指標は第11次から、環境関連など政府の達成責任が重い約束性指標と、成長率など主として市場主体の経済活動を通じて決まる預期性指標に分けられているが(図表1)、第14次規画ではこれら指標が「経済発展」「イノベーション推進(創新駆動)」「環境生態保全(緑色生態)」「民生福祉」「安全保障」の5つの分野に分類された。特に「安全保障」は新たに設定された分野として注目される。

 

全体で20の主要指標を設定し、預期性指標としては経済発展分野の3指標を含め計12、約束性指標は緑色生態の5指標と安全保障の2指標など計8。民生福祉関連は民生重視の姿勢を示すため、失業率、医師数、託児サービス人員数の3指標が新たに導入された(図表2)。

 

[図表1]5ヵ年規画(計画)のキーワードと主要指標数推移 (注)第13次の25指標はさらに複数の指標に細分化されており、実際は計33指標でうち約束性指標は19。 (出所)中国国家信息(情報)中心、2021年3月8日付新華社などを基に筆者作成
[図表1]5ヵ年規画(計画)のキーワードと主要指標数推移
(注)第13次の25指標はさらに複数の指標に細分化されており、実際は計33指標でうち約束性指標は19。
(出所)中国国家信息(情報)中心、2021年3月8日付新華社などを基に筆者作成

 

(注)数値は「累計」「年平均」と記載がない限り2025年目標値。約束性指標は⑨と⑭〜⑳、その他は預期性指標。 (出所)第14次5ヵ年規画綱要
[図表2]第14次5ヵ年規画の20主要指標 (注)数値は「累計」「年平均」と記載がない限り2025年目標値。約束性指標は⑨と⑭〜⑳、その他は預期性指標。
(出所)第14次5ヵ年規画綱要

 

他方で、科技関連から科技進歩貢献率とインターネット普及率、民生福祉から脱貧、都市部バラック(棚戸)地区住居改造、環境関連では新建設用地増加規模抑制、非化石燃料シェア、主要汚染物質排出量が主要指標から消えた。

 

脱貧を始め、これらはすでに数値目標を設定する必要のないレベルに到達したとの認識だろう。

 

第14次規画では経済発展分野で成長率の数値目標を提示せず、「潜在成長力を十分発揮することを推進」「経済の運行は合理的区間を保持」「各年度の実情に基づき(視情)成長率目標を提出する」とした。担当の発改委副主任は、「政策運営にゆとりをもたらすもの。定性的記述を中心にしながら、定量的な記述も暗に含まれている。成長率が不要ということではない」と説明、一種の「弾性目標」だとみられている。

 

政府工作報告ではこの他、研究開発費については年平均伸びと投入強度を主要指標としたことに加え、基礎研究実施の10年行動方案制定方針を示した。環境関連ではカーボン・ニュートラル(碳中和)に関し新たな具体策への言及はなく、2030年までにCO2排出量のピークを迎える行動方案を策定するとの方針を繰り返すに止まった。

「労働生産性目標」の矛盾点

最後に、全員労働生産性(国家統計局はGDP/年平均就業者数と定義)伸びをGDP成長率以上にするとの主要指標について。労働力人口をLとして簡単な算式を示すと、t期からt+1期にかけての労働生産性伸びは、

 

(GDPt+1/Lt+1)/(GDPt/Lt)=(GDPt+1/GDPt)/(Lt+1/Lt

 

これがGDP成長率を上回るためには、

 

(GDPt+1/GDPt)/(Lt+1/Lt)>(GDPt+1/GDPt

(Lt+1/Lt)<1、Lt+1<Lt

 

つまり成長率の如何にかかわらず、目標実現には労働力人口減少が必須だ。人力資源社会保障部(人社部)は規画期間中に労働力人口が3500万人減少して軽度高齢化社会から中度高齢化社会に移行すると予測しており、目標が実現する可能性は高いが(一般に人口予測の確度は高い)、労働力人口の減少を政策目標にしているはずはない。

 

実際、規画は定年退職法定年齢の段階的引き上げ方針を掲げ、むしろ減少を食い止めようとしている。両会終了後、事務方の国務院研究室が発表した政府工作報告の修正(81ヵ所の微調整で、40%近くは医療や教育など民生福祉関連)の中にこの部分への言及はなく、規画綱要確定版もそのままだ。

 

労働力、資本の2大生産要素の投入増ではなく、技術革新による全要素生産性上昇で一定の成長率を維持するとの趣旨だろうが、国家統計局の労働生産性の定義を前提とする限り、目標設定としては疑問が残る。

 

<関連拙稿>

「中国第14次5ヵ年規画、どこに注目すべきか」外国為替貿易研究会「国際金融」1342号(2021年3月)

「中国国家主席任期制限撤廃をどう読むか?」同1308号(2018年5月)

 

 

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