2021年3月に開催された全国人民代表大会と政治協商会議。香港や新彊などを巡る問題は、中国の外交環境を一層厳しいものとしているが、両会では、中国側の保守的な姿勢が鮮明になった。今後、中国はどのような方針を打ち出すつもりなのか。詳細に検証していく。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

諸外国からも注目を集めた、香港選挙制度修正

中国当局からすれば「完全な内政問題」だが、本年の両会で最も海外が注目し、また非難の的となった案件だ(『香港政策の大転換?中国「次期5ヵ年規画」の行方を読む』参照)。

 

全人代最終日3月11日、「香港特別行政区選挙制度を改善し完全なものにする(完善)決定」を賛成2895票、反対ゼロ、棄権1票で可決。国務院香港マカオ弁公室(港澳弁)副主任は両会後記者会見で、「愛国者治港」は一律・画一的(清一色)に実施するものではなく、いわゆる汎民主派の中にも愛国者はおり、彼らは立候補し立法会(香港の議会)に参画できる、改革後の立法会ではより多くの者から異なる意見を聴くことになるとした。

 

しかし諸外国は汎民主派の立法会選挙への立候補が事実上排除されたとしており、そうした懸念は払しょくされていない。中国当局は有能な「愛国者」によって香港が統治されることを望んでおり、今後汎民主派だけでなく、「北京寄りというだけで無能な者」の排除も進む可能性があるとの見方もある(図表1)。

 

(注)上から「Patriots(愛国者)」→「True Patriots(真の愛国者)」→「LEGCO(香港立法会)」。 (出所)2021年3月13日付香港英字紙South China Morning Post、Henry Wong作より転載
[図表1]「愛国者」のふるい落とし?
(注)上から「Patriots(愛国者)」→「True Patriots(真の愛国者)」→「LEGCO(香港立法会)」。
(出所)2021年3月13日付、香港英字紙「South China Morning Post」Henry Wong作より転載

 

習氏が可決当日議場に入る際、港澳弁主任と親中派の元香港特区行政長官2名に会釈し、可決後、港澳弁主任に近寄り10秒以上立ち止まった様は、香港が習氏の手中に落ちた瞬間を象徴的に示すものと注目された。

 

その後、中国当局は9月に立法会選挙(その後12月に延期)、2022年3月に特区行政長官の選挙が予定されていることから、5月までにはすべての作業を完了させるとし、全人代常務委員会が3月末、選挙手続きを規定している香港基本法の付録I(行政長官を選出する選挙委員会の構成を規定)、II(立法会議員の構成を規定)の修正案を全会一致で可決。これを受け5月27日、香港特区立法会が選挙制度見直しの条例草案を賛成40票、反対2票で可決し、同31日に効力が発生した※3

 

※3 修正内容は広く報道されており割愛するが、以下の新たな懸念が出ている。①新設の候補者資格審査委員会(構成員の規定はないが、特区行政長官は特区政府主要職員になると述べている)の決定が、議長が行政長官である国家安全委員会の審査意見書に基づくのは利益相反、②同委の決定に提訴できないのは手続きの透明性・公正確保の点で問題、③行政長官や立法会が選挙手続き変更に関与する規定が削除され、全人代常務委がすべての権限を有するようになった。

「完璧」だった選挙制度見直しの投票結果

一般に全人代の決議は皆全会一致で可決されるものと思われがちだが、(民主的プロセスを踏んでいることを対外的に示すため、意図的に仕組んでいる面もあるかもしれないが)実はそうでもない。実際、今回も「第14次5ヵ年規画・2035年遠景目標綱要」には反対11票、棄権が12票あった。

 

「両高」と呼ばれる最高人民法院長と人民検察院長の活動報告の承認では例年5〜10%が反対または棄権、本年も前者は反対65票、棄権31票、後者は各々52票、22票だった。胡錦濤氏が初めて国家主席に選出された際は反対4票、棄権3票、2008年再選時は各々3票、5票、2003年、すでに国家主席を離れた江沢民氏の中央軍事委主席留任を承認する決議では、反対98票、棄権が122票にのぼった。

 

憲法修正も全会一致ではない。江沢民氏が提唱した「3つの代表」の文言を入れた2004年修正は反対10票、棄権17票、「鄧小平理論」「依法治国」「非公有経済」を入れた1999年修正では各々21票、24票だった。

 

これらに対し、習政権下では2018年、国家主席の任期制限を撤廃する憲法修正(連載『中国国家主席「任期制限撤廃」を読み解く~習政権の思惑は?』参照)が反対2票、棄権3票、2020年に香港国安法を可決した時は各々1票、6票で圧倒的賛成多数と言われたが、今回はそれをも上回る「完璧」な結果だった。

 

以下、留意点を指摘する。

 

①もともとメインランドの一般市民の間では、香港の汎民主派に対する共感はあまりなく、2019年来の香港の混乱から選挙制度見直しは当然と考えている者が多い、またはそもそも本問題に対する関心がそれほど高くない節がある。投票結果はある意味、そうした空気を反映している。

 

②他方、2021年の代表委員総数は2953人で、投票時出席者は2896人、57人が欠席していた。この欠席者数が通常より多いか少ないか定かでないが、投票態度を明らかにしたくなかった者が欠席したとすれば棄権に近く、見かけほどは「完璧」ではなかったことになる。

 

③国家主席任期制限撤廃の反対2票については、香港と「台湾省」の代表、投票が民主的に行われたことを装うための事務局の意図的操作などと憶測された。今回はほぼ「完璧」な結果だったためか、棄権1票を投じた者が誰かあまり詮索されていないが、見直しに批判的な中国語ネット上では、「棄権は反対の意思表示」「反対票を投じる勇気はなかったが、一定の良識はある人物」といった書き込みがある。

 

(次回に続く)

 

 

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