マスコミ等による「国は大幅な赤字を抱えており…」という切迫感あふれる報道に、不安を覚えたことのある人は多いのではないでしょうか。このいい回しはなんとも絶妙であり、多くの国民の認識と実際の意味する内容とには、乖離があるといえます。しばしばニュースで目にする「国の借金」「国の赤字」「日本国の赤字」「日本国の黒字」等の、微妙な表現とそれらの意味する正確な内容について、経済評論家・塚崎公義氏が平易に解説します。

中央政府の財政赤字は、対外的な純資産額に影響なし

政府が国債を発行して資金を得て、それで道路を建設したとします。建設会社は受け取った建設資金を銀行に預け、銀行がそれを用いて国債を購入したとすれば、民間部門は財政赤字の分だけ資産が増えたことになります。

 

建設会社が受け取った代金を従業員に給料として支払い、従業員がそれを銀行に貯金する場合もあるでしょうが、建設会社の預金であれ従業員の預金であれ、民間部門の預金であることには変わりありません。

 

つまり、中央政府がいくら財政赤字を出しても、それは民間部門の政府への「貸し」となるだけで、対外的な日本国の純資産の額には影響しないのです。

外国の国債等の購入も、対外的な純資産額に影響なし

なお、政府が海外部門と直接取引することもありえます。たとえば、政府が外国から資材を調達して代金を支払う場合です。もっとも、商社が外国の資材を輸入して、それを政府が商社から国内取引として買う場合と同じことですから、本稿では直接購入するケースについては考えないことにしましょう。

 

政府の外国との取引で金額が大きいのは、外国の国債等を買う取引でしょう。政府は外貨準備として巨額の米国債等を持っていますから。しかし、この取引は経常収支と関係ありませんから、日本の対外純資産には影響しないのです。

 

日本政府が外国から国債を買うときには、ドルを買う必要があります。日本の銀行からドルを買って代金を支払うわけですが、その際に日本の銀行は外国の銀行に預金してあるドルを持ち帰って日本政府に渡すことになります。したがって、日本政府の持っている外国国債は増えるけれども、日本の銀行が外国の銀行に預けてある預金残高は減ることになり、日本全体としての対外純資産は変化しないのです。

 

余談ですが、一連の取引過程では政府の純資産も民間の純資産も変化しません。政府が国債を発行して(民間から借金して)米国債を手に入れれば、負債と資産が同額増えることになります。民間は日本国債の保有が増えて米国銀行への預金が減りますから、資産が減って増えることになります。

 

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

 

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