コロナ禍で、自動車のオンライン販売、サブスクリプションサービス普及の傾向は強まった。まだマーケットを占有する会社は現れていないが、自動車会社は今後、大きな変化にどう対応するかが問われることになる。変化は売り方だけではなく、ガソリンエンジン車からEVへの流れにも起こる。※本連載は、野地 秩嘉氏著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ガソリン車からEVへの「買い替え」というチャンス

自動車業界の販売部門にとって「大きな変化」は悪いことばかりではない。コロナ禍で埋もれてしまっているが、アメリカ以外の国はガソリンエンジンの車からEVへの流れが決定的になった。こうなると、いずれアメリカも追随せざるを得なくなるだろう。

 

2019年、EUは気候変動対策「欧州グリーンディール」を発表した。2050年には域内の温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする目標を掲げ、経済社会の変革を推し進めるという。

 

2020年には、中国の習近平国家主席が2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を減少に転じさせることを決めた。そして、2060年までにはカーボンニュートラルを目指すと表明している。カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。つまり、EUが言っていることと同じ目標を達成すると宣言したのである。

 

日本でも菅義偉首相は成長戦略の柱として「経済と環境の好循環」を掲げ、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると発表した。

 

以上に加えて、イギリスはガソリンとディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止。中国では2035年をめどに従来型のガソリンエンジン車の製造、販売を停止する方針だ。

 

すると、大きな変化は今後15年の間に起こる。

 

世界ではこれから自動車、オートバイ、産業機械などからガソリンを燃料とした内燃機関がなくなる方向に向かうのである。

 

世界の車のほとんどはEV、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)になってしまう。大きな変化ではあるけれど、考えようによっては、とてつもない買い替えの需要が生まれるわけだから、自動車産業にとってはチャンスでもある。

 

自動車産業は新型コロナ危機の対応と並行してEV、PHV、FCVへの注力をどの社も始めなくてはならない。

 

各自動車会社にとって、今後の日常は危機管理そのものだ。

 

さて、ジョンダワーというアメリカ人の日本史研究家がいる。『敗北を抱きしめて』という著書で知られるが、彼は2011年の東日本大震災の後、朝日新聞のインタビューに対して、こう答えている。

 

「個人の人生でもそうですが、国や社会の歴史においても、突然の事故や災害で、何が重要なことなのか気づく瞬間があります」

 

事故、災害、感染症の蔓延といった危機に陥ると、人は失ったものに気づく。同時に大切にしなければならない本質とは何だったかを考えるようになる。新型コロナ危機の間、わたしたちがやらなくてはならないことは人生の本質に気づくこと、それを大切にすることだろう。そして、躊躇せずに大切にするもののために行動を起こすことだ。


 

 

野地秩嘉
ノンフィクション作家

 

 

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

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