先物取引では「損益が発生しない」状況を作り出し、価格変動による損失を回避することが可能です。日本のお米農家では、商品先物取引で価格を固定させ、お米の価格変動リスクをヘッジする方法が広く知られています。この「価格変動リスクのヘッジ機能」のさらなる利点について、三次理加氏の『お米の先物市場活用法』(時事通信出版局)より一部編集・抜粋し、解説します。

米価格の変動に左右されない…リスク回避の先物取引

2.「実物取得機能」

 

商品先物市場を利用して、米現物を購入することができます。将来、米価格が上昇することを予想し、「買いヘッジ」をした場合、米先物市場で買った米については、総代金を支払い、米を受け取ることができます。

 

原則として、ブランド(銘柄)の指定はできません。ただし、「合意早受渡し制度」という制度を利用すれば、価格、年産、産地、銘柄、受渡場所などを柔軟に指定することも可能です。また、受渡しされる米は「農産物検査法に基づく検査規格水稲うるち玄米1等品及び2等品」であるため品質に対する心配もありません。

 

米の仕入れ価格を安く抑えたい場合*2、米価格の変動に左右されず定期的に安定した価格で仕入れたい場合、将来の仕入れ価格を現在の価格に固定したい場合などに利用できます。

 

ご参考までに、大阪堂島商品取引所の米先物市場では、2014(平成26)年1月から2019(令和1)年8月までの間に玄米重量でおよそ4万2000トンもの米が受渡しにより決済されています*3

 

また、商品先物取引は証拠金制度を採用しています。そのため、買い注文が成立した時点では総代金は必要ありません。

 

決済期限が到来するまでの間、総代金の一部を運用することもできるため、資金を効率よく活用することができます。

*2必ずしも安く仕入れられるとは限らない点に注意が必要。

*3「コメ先物期間レポートVOL.56」大阪堂島商品取引所ホームページ資料より筆者が算出。

 

3.「在庫調整機能」

 

ヘッジ取引の考え方を応用すれば、一定の条件の下に、今ある商品在庫を調整することが可能です。たとえば、現在保管している米を売却すると同時に、先物市場で将来、同量の商品を購入する契約をします。こうすれば、倉庫料を削減することができます。

 

さらに、売却代金の一部については金利収入を得ることも可能となります。米の卸売業者は、収穫時期に新米を仕入れ、その在庫を管理しつつ1年かけて小売業者に販売します。

 

たとえば、あらかじめ在庫の一部を先物市場で買っておき、需要期に必要量だけの米現物を受け取ることにより決済するとします(=受渡決済する)。こうすれば、保管コストを削減できるほか、品質劣化・毀損リスク、売れ残りリスクを回避することが可能となります。

 

米ではありませんが、たとえば、ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)が昔から、小豆についてヘッジ取引を行っていることは有名です。ホクレンは、収穫時に生産者から買い取った小豆を1年から1年半かけて販売していきます。

 

その間、在庫の価格変動リスクを回避するため、ホクレンは、小豆先物市場で売りヘッジを行っています。現物で販売できた分に関しては、売りヘッジをはずします(=買戻しにより差金決済をする)。小豆の現物が不足した場合には、小豆先物市場で買いヘッジを行うこともあるそうです。

 

また、訴訟先進国の米国では、在庫の価格変動リスクをヘッジしていなかったことに対して、株主代表訴訟が行われた実例があります。

 

1992(平成4)年、米国インディアナ州の穀物組合LaFontaine Grain Co-opは、同社の穀物在庫の価格下落リスクを適切にヘッジしなかったために、およそ43万ドルの損害を発生させた「リスクヘッジに関わる善管注意義務違反」として株主代表訴訟を起こされました。

 

この訴訟で、インディアナ州の控訴裁判所は、取締役の損害責任を肯定する判決を下しています。日本ではまだ事例を聞きませんが、大手の業者の場合には、注意が必要かもしれません。

 

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お米の先物市場活用法

お米の先物市場活用法

三次 理加

株式会社時事通信出版局

先物取引といえば、ハイリスク・ハイリターンな資産運用、投機というイメージが強い。一方、生産者、集荷業者、卸売業者、飲食業者等の立場で先物市場を利用する場合には、次のようなメリットがある。 1価格変動のリスクヘッ…

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