(※写真はイメージです/PIXTA)

「訪問看護ステーションは利用者を断ってはいけない。特別な理由がない限り利用者の要望は受けよ――」作業療法士たちは、リハビリを必要とする利用者をサポートしたいという熱意のもと、厚労省の指示を遵守し、「利用者ファースト」を貫いてきました。しかし、2006年の小泉制度改革で覆ることになります。そこには、日本の医療界に潜む、根深い問題がありました。

「利用者ファースト」を置き去りにした制度改定

それまで、療法士は厚生労働省が出してきた条文のなかに書かれた「訪問看護ステーションは利用者を断ってはいけない。特別な理由がない限り利用者の要望は受けてください」という内容を守って頑張ってきました。その結果、看護よりもリハビリのニーズのほうが圧倒的に多いことが分かり、結果的にリハビリの数が多くなっていったのです。在宅の要介護者のなかでは、要介護の4、5という重度の人はごく一部で、1〜3くらいの軽度者のほうが多いです。

 

看護は重度者のケースで行い、軽度者がそれ以上悪くならないためのサポートはリハビリが担当する。つまり、看護師と療法士の間には、利用者のニーズを踏まえながら、ちゃんと住み分けが利いています。

 

地域によっては、療法士が存在しない訪問看護ステーションと、療法士が多く在籍するステーション間で協力し合う体制を築いているところもあります。岡山県もその例の一つです。事実、他のステーションの利用者のリハビリを私たちが担当させていただく事例が数多くありました。

 

また、介護保険は全国ほぼ一律に40歳を超えると保険料を払っているにもかかわらず、全国の自治体のなかには訪問リハビリ機能がない自治体が多く、現在でも402もあります。2006年当時はもっと多かったでしょう。これら訪問リハビリ機能がない自治体で、利用者をカバーしているのは訪問看護ステーションが提供するリハビリです。

 

そういった当たり前のことが、この制度改正によって当たり前にできなくなったのです。

「アフターピル」の例に見る、岩盤規制の問題

この制度改正の元凶となった日本の医療界の矛盾は、例えばこんな事例でも語られます。

 

女性が使う「アフターピル」という薬があります。そのアフターピルはアメリカでは薬局で買えるのに、日本では医師の処方箋がなければ買うことができません。おかしいではないかというと、ある医師がテレビのインタビューで「薬局で売るのは時期尚早だ」と語る。それは「時期」の問題ではなく「既得権」の問題だと分かっているのに、誰も指摘できないのです。

 

あるいは、安倍内閣のときに問題になった加計学園の獣医学部新設問題も、岩盤規制が問題だから特区をつくろうということで起きました。

 

訪問看護ステーションからの訪問リハビリが問題ならば、新たに療法士をメインとした訪問リハビリステーションをつくって、そこから療法士を派遣すればいいのに―医療界においても、大学の獣医学部以上の岩盤規制がかかっているのです。

 

世の中には「四師」という言葉があります。それは「医師、看護師、薬剤師、歯科医師」の4つを指します。それらの4つが意味しているのは「単独で保険請求できる職業」。

 

彼らは、これ以上医療界に単独で保険請求ができる専門職を入れまいとして頑張っています。そうしないと自分たちの分け前が減るからです。だから、療法士が独自にリハビリステーションをつくって、単独で保険請求することも認めたがらないのでは、と思っています。

 

しかしそれは私たち療法士だけの問題ではなく、利用者にとっても「自分の力で自立して生活したい」という訪問リハビリへのニーズを無視されたことになります。

 

筆者が主張したのは、「利用者の側にメリットがあるかないかを見ればいい。すべて権力側から見るからおかしなシステムになる」というとてもシンプルなものでした。

 

 

二神 雅一
株式会社倉心會 代表取締役

 

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本物ケア

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二神 雅一

幻冬舎メディアコンサルティング

「寝たきり」や「リハビリ依存」の高齢者。必要以上のサポートを行う過度な介護が、高齢者から身体機能回復のチャンスを奪い、自立を妨げているのです。 20余年にわたり介護業界で活躍してきた著者が掲げる「本物ケア」は、…

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