いま、弁護士や税理士などの士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに仕事が奪われる」との声も……。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつける方法を税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

意識の変化と育成を促進する組織体制作り

人事評価で従業員の意識を変える

 

「仕事」の定義を見直したのであれば、人事評価の項目も見直す必要があります。

 

「仕事」の定義を見直しても人事評価項目に反映させなければ、この見直しは一時的な意識喚起で終わり、新しい「仕事」の定義も形骸化するおそれがあります。人事評価は昇進や昇給に影響するので、人事評価項目に反映されると従業員の関心は高まります。また、人事評価項目は面談でも確認する項目なので定期的な意識喚起が行われることになります。さらには人事評価項目に反映させることで経営者の本気度を示すことにもなるでしょう。

 

私の会計事務所では、パートを含めたすべてのメンバーに5つの人事評価項目を設けています。その一つに「創造性」(事務所の運営や事業開拓に対する能動的な関わり)があります。この項目を設けることで、事務所運営や事業開拓、事業戦略を考え、よいアイデアがあれば提案することも全メンバーの「仕事」だと意識喚起しています。そして、メンバーからよい意見が出れば、積極的に採用するようにしています。

 

私も「率直な意見を聞かせて」「なにかいいアイデアがあったら教えて」と意見を求めます。こうして採用された意見は、発案したメンバーも積極的に取り組んでくれます。

 

求める人材像と採用の基準

 

組織運営上、採用戦略は極めて重要です。優秀な人材が採用できれば組織は活性化し、業績も上がり、新事業の立ち上げにつながることさえあります。一方で、問題がある人材を採用すれば、組織の雰囲気が悪くなり、全体のモチベーションもパフォーマンスも下がります。そのため、採用は組織戦略の柱の一つです。

 

経営者意識を持ち、将来的にも付加価値の高い能力を備えた人材を育成するためにも、何に主眼を置いて採用すべきかの基準を事前に決めておく必要があります。ご参考までに私の事務所の例を紹介します。

 

私が面接時に重視するポイントに、話の聴き方があります。コンサルティング業務をするうえで重要な要素だからです。また、話し方は意識される方も多いですが、聴き方はあまり意識していない方が多いので、聴き方を見ればその人の人間性が垣間見えます。相づちの打ち方から姿勢や表情、話を聴き終えてから自分が話すまでの間、質問の的確さなどを見ます。

 

たとえば、相手の話を聴き終えてから話すまでの間が短すぎる人は、相手の話にかぶせるように話しがちです。これでは相手は「話をしっかり聴いてくれている」「自分の気持ちをわかってくれている」と感じにくくなり、心を開いて話をしようとはしません。また質問の的確さは相手のニーズを把握して新たな提案をするために不可欠な要素です。

 

知識や経験は入社後の教育で身につけてもらうことができても、人間性や会話の癖、思考パターンはなかなか教育できるものではなく、一朝一夕では改善できません。そのため、教育でリカバリーできる点よりも、教育が難しい点を重視して採用の判断をしています。

 

また、IT技術が進歩すればするほど、それを使いこなせるITスキルを持った人材の価値は上がっていきます。この点も採用基準の重要なポイントです。私の事務所でもITに詳しいメンバーが加入した結果、ITツールを駆使してさまざまな業務が大幅に効率化されました。ITスキルは士業事務所が弱い傾向にあるだけに、ITスキルを持った人材の採用は事務所の生産性や業務効率を大きく上げてくれる可能性があります。
 

 

藤田耕司
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
FSGマネジメント株式会社代表取締役
FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

 

 

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

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藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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