相続が発生したら、自分を含めて相続人は複数人。少しでも得したいからと、生前贈与を受けようとするケースがあります。しかし本当に得しているのでしょうか? 円満相続税理士法人の橘慶太税理士が解説します。

これは特別受益かどうなのか…3つの判断のポイント

「特別受益」について、ポイントを見ていきましょう。

 

まずポイントの1つ目、「特別受益の範囲」です。生前贈与を受けたもの、なんでもかんでも「特別受益」になるかといえば、そうではありません。「親族間の扶養援助を超えるもの」が「特別受益」とみなされます。

 

たとえば、「お父さんお母さんが子どもの食費を負担してあげる」。扶養家族のなかでは当たり前の光景です。このようなことは「特別受益」には当たりません。

 

東京家庭裁判所の資料では、「結婚の際の贈与」について、「持参金、支度金は、金額が大きければ、一般的には特別受益に当たりますが、結納金や挙式費用は、特別受益に当たりません」としています。

 

また「居住用不動産の贈与・その取得のための金銭の贈与」については「生計の基礎として役立つような贈与であり、特別受益に当たります」としています。

 

さらに「学資(大学等高等教育)を受けるための費用」については「被相続人の生前の経済状況や社会的地位を考えると、相続人を大学等へ通わせるのは親としての扶養の範囲内と思われる場合や、共同相続人全員が同程度の教育を受けている場合には、特別受益に当たらないとされるのが一般的です。留学費用も同様の場合には、特別受益に当たらないとされるのが、一般的です」としています。

 

たとえば「兄弟全員医者なので、医学部に進学させました」、という場合は「特別受益」に当たりません。しかし「長男だけ医学部に進ませて、次男には医学部に進ませませんでした」、という場合は、長男の学費は「特別受益」に当たる可能性があります。

 

何が「特別受益」に該当し、何が「特別受益」に当たらないか、正直線引きが難しいです。きちんとするのであれば、専門家に相談する必要があります。

 

続いてポイントの2つ目、「特別受益の時効」です。前出の事例では、10年前の生前贈与が「特別受益」に該当しました。「特別受益」に時効はありません。

 

少しややこしくなりますが、遺留分を計算する際の持戻し計算には、10年間という期間が設けられました。ただ遺言書がなく、法定相続分を計算する場合は、「特別受益」に時効はありません。ただ「特別受益があった」と立証する必要はあります。

 

3つ目のポイントは「特別受益の持戻し免除」です。正確には「特別免除の持戻し免除の意思表示」と言います。

 

たとえば、お母さんから娘に生前贈与をする場合、「遺産の前渡し扱いにしなくていいわよ」と意思表示がされた場合、持戻し計算の対象から外れます。法律上は書面にしなくてもいいとされていますが、言った・言わないの争いになりかねないので、遺言書に記しておくなど、対策をしておくことをお勧めします。また、遺留分の計算には影響しない点もポイントです。

 

この「特別受益の持戻し免除」ですが、2019年の民法改正で、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産(居住用建物、またはその敷地)の遺贈、または贈与がされた場合、原則として遺産分割における配偶者の取り分が増える、となりました。

 

それまでは夫婦間でも「特別受益」とされていました。たとえば母と娘が仲が悪かったとします。父の相続の際に、娘は「お母さんはこの家を生前贈与でもらっているのだから、遺産分割の際に、取り分が少なくて当然でしょ」ということが言えたわけです。民法改正によって、居住用不動産に関しては、「特別受益の持戻し免除の意思表示があったと推定される」となり、安心して贈与を受けられるようになりました。

 

今回、「生前贈与は遺産の前渡し」について解説しました。相続人が何人かいる場合、贈与を受ければ相手の取り分が減って、自分が得する……というわけではないのです。くれぐれも取り違えのないよう、気を付けてください。

 

生前贈与は遺産の前渡し!争族防止には【特別受益】を理解せよ

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