「出してあげるよ。ただし…」続いた予想外の言葉
「いいよ、他ならぬヤーマンの頼みだものな。出してあげるよ。……ただし」
その言葉に救われて思わず顔を上げた筆者を、むらやんさんは真面目な顔で見つめ返して言葉を続けた。
「俺は100万出してあげるよ。ヤーマンに300万出してあげることもできるけど、でもこれはいいチャンスだと思うんだよ。もう2人、頭を下げて100万ずつ借金を申し込んでこいよ」
「あ、ありがとうございます、ものすごく助かります!」
筆者は立ち上がって深々と頭を下げた。やった、100万円でも手にすることができたらそれだけ難波店を生き延びさせることができる。むらやんさんの言葉は本当にうれしかった。でもあと200万手に入れるためにはこんな経験をあと2回繰り返さなければならないのか。そう思うと心の中は複雑だった。そんな筆者の気持ちは見透かされているようで、むらやんさんは笑った。
「ハハ、まあ座って座って」
「あ、ハイ、ありがとうございます!」
なんとか席に座ったが、まだ顔中真っ赤なままの筆者を見つめてむらやんさんは言った。
「ヤーマン、頑張れよー。俺も経験あるけどこういう時は自分がどん底にいることを十分味わって、現状を認識することが大事なんだよ。そしたらそこから這い上がろうとする気持ちが強くなるよ。借金しただけじゃあ事業は立て直せないからな。これから必死で考えなきゃいけないよ。でもどん底から這い上がった人間は強いからな」
言い終わると満足したようにむらやんさんはにっこり笑って筆者の肩をポンポンと叩いた。そして自分と筆者のグラスに日本酒をめいっぱい注いだ。
「さ、飲むぞ、ヤーマンの前途を祝して乾杯だ!」
借金を3回申し込んだことで「見えてきたもの」
その後、筆者はむらやんさんに言われたとおり、あと2人、投資家の友人にお願いして、100万ずつ借金させてもらった。結果的には2人とも快く応じてくれたけれども、もしこの大切な人たちを失うことになったらと思うと、やはりなかなか話を切り出すことができなかった。
大切な友人に借金の話をすることはとても嫌だった。自分が今まで築いてきたものを失うかもしれないと思うと怖かった。それでもそんな体験を繰り返しても守らないといけないものが筆者にはある。
これからも、何があっても、CIELの仲間たちを守っていく。
そのためには何でもやろう。美容業界の常識とかこだわりとかどうでもいい。借金を3回申し込んだことで、筆者とって大切なものは何か。それがはっきりと見えてきた。
山下 拓馬
OXY株式会社 代表取締役
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