住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃しています。そのなかで、空室がスラム化につながってしまった事例を、作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を編集・抜粋して解説します。

マンションの「飲み水」…なぜ問題になったのか?

横浜のマンションも「飲み水」が懸念の的です。地下にコンクリート製の受水槽があるのですが、数年間も法定点検が行われておらず、衛生面の心配が募っています。

 

東京の都心でも荒廃現象が見られます。渋谷区の四階建てマンションは、築後三〇年未満ですが、敷地の一角が粗大ごみ置き場になっています。「管理者」に選ばれた人物が、修繕積立金を一戸当たり一〇〇〇円と常識外れの安値に設定したために大規模修繕ができず、管理が崩壊しました。

 

数年前には給水管が壊れ、三階から一階まで水浸しになりました。福岡市の中心街には、一一階建て全一三〇戸が丸ごとスラム化した築後四〇年超のマンションがあります。もとは低層階にテナントが入り、四階以上に中流家庭が入居する、ごくふつうのマンションでした。

 

ところが、バブル期に東京の開発業者が「地上げ」狙いで約一〇〇戸を買い取り、状況が一変します。住民と業者が対立し、共用部の電気代の支払いがストップ。一九八八年にマンションへの電気が止められました。

 

エレベーターは動かず、屋上の貯水タンクへの水の供給も停止し、人が住めなくなります。その後、居住者が続々と転出し、空室に浮浪者や不審者が入りました。混乱に乗じて暴力団事務所も入居します。

 

銃弾が扉に撃ち込まれ、不審火による火災で空室が丸焼けになりました。白骨化した変死体も発見され、マンションは荒れ放題。スラムへと転がり落ちたのです。年金暮らしで転居できず、住み続けるしかなかった高齢者が味わった恐怖は、想像を絶するものだったでしょう。

 

地上げしたい業者にすれば、空室が増えれば更地にしやすくなるので廃墟化は大歓迎かもしれませんが、経済状況は好転せず、再開発のプランは吹き飛びます。建物は景気変動の谷間で立ち往生しながらも、その後、徐々に管理機能を回復し、住民はかなり増えました。

 

スラム化は、いつ、どこで起きても不思議ではなくなりました。超高齢化が進み、空き家のリスクが高まり、危機が忍び寄っています。これらの圧力を受けとめる、唯一といっていい防波堤が管理組合なのです。

 

 

山岡 淳一郎

ノンフィクション作家

東京富士大学客員教授

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

山岡 淳一郎

岩波書店

建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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