こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「中学を退学して、独学で学びたい」

全部で20人が意見を聞かせてくれました。各自が私にとって何が最善の利益になるかを考えてアドバイスしてくれたのです。それは私にとって最良のスタートだったと思います。ただ、彼らは皆、成長の過程で一種の制限を受けていました。というのも、彼らが育った時代には、まだインターネットが存在していなかったからです。そのため私は、彼らのアドバイスがどの程度参考になるか、自分で決めるしかありませんでした。

 

しかし、1人のアドバイスを考慮し、また別の誰かの話を聞くということばかりしていては、集中して物事を考えることができません。そこで、私は「中学を退学して、独学で学びたい」という自分の考えを、当時の中学の校長先生に率直に打ち明けたのです。

 

校長先生は最初、「あなたが憧れるアメリカの有名大学の教授たちと一緒に仕事をするには良い大学に入らなくてはいけないし、そのためにも良い高校に行く必要がある。あと10年は学校で勉強するべきだ」と言いました。

 

しかし、先に述べたように、私はインターネットを通じて、すでにそうした教授たちともやりとりをしていました。研究に関する私と彼らのメールでのやりとりを校長先生に見せて、「もうすでに教授たちとは一緒に仕事をしています。毎日学校に行っていたら、自分の研究時間が減ってしまいます。それでも私は高校へ進学するべきでしょうか」と尋ねました。

 

「中学を中退したい」という私の要望を受け入れれば、校長先生に罰則が科せられることになります。当時は飛び級に関する法律がなく、中学は義務教育なので、校長先生が私の意見を受け入れることは法律に違反する行為だったのです。その一方で、私は校長先生が教育局の圧力をはね返すために私を支援してくれることを秘かに期待していました。

 

校長先生は私の話を聞いて1~2分じっと黙っていましたが、最後に口を開いてこう言いました。

 

「明日からもう学校に来なくていいよ。あとは私が何とかするから」

 

これはもう時効になった今だからお話しできることですが、校長先生は教育局の監査が入ったときも、あたかも私が学校に来ているように見せることで私を守ってくれました。その嘘のおかげで、私は学校に行かずとも、自分のペースでネット学習をすることができたのです。

 

中学を退学することについて、母は最初から賛成でしたが、父は反対しました。しかし、家族は校長先生を尊敬しており、その校長先生が「大丈夫」と言ったので父は何も言いませんでした。あとで聞いたところでは、父は校長がそのような考え方を受け入れてくれるかどうかを確認したかっただけだったそうです。私の考えを支援してくださった校長先生には、心から感謝しています。

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

 

 

 

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