「俺を滞納者呼ばわりしたから怒ったんだぞ」
「俺さ、あの保証会社の奴と仲違(なかたが)いしたままなんだけど、太田垣さんさぁ、仲を取り持ってくれない? そうしてくれるなら、滞納分全部まとめてすぐ払うからさぁ」
内田さんなりに、今の状況は良くないと思っていたようです。
「分かりました。じゃあ、担当の人と一緒に謝りに行けば、ちゃんと話を聞いてくれますか? 私も一緒に行きますから」
私がそう言うと、内田さんはホッとしたような声で、
「ありがとう、ありがとう。じゃ、すぐ振り込むからな」
そう言って電話を切りました。翌日早々には、滞納額が全額支払われました。やはりお金がなくて、支払っていなかった訳ではないようです。家賃保証会社の担当者に全額振込があったことを連絡すると、かなり驚いていました。ずっと話もできず、怒鳴られっ放しだったのですから、それも当然です。
お金も全額入金されたので、手続きをする訳にはいきません。会ってくれるということなので、緊急事態宣言中ではありましたが、細心の注意を払って一緒に謝りにいくことになりました。
当日、物件に行くと、道に面した窓から内田さんは私たちが来るのを見ていたようです。木造アパートの外階段から2階に上がると、すでにドアを開けて仁王立ちで待ち構えていました。電話の感じからすると、サラッと終わるのかなと甘く考えていたのですが、いきなり内田さんは怒鳴り始めました。
「おまえがな、俺を滞納者呼ばわりしたから怒ったんだぞ。それをちゃんと分かってんのか!」
まだ社会人2年生の担当者は、一生懸命に頭を下げているのですが、内田さんの怒りは収まりません。怒りだしたら、どんどんヒートアップしていく感じです。ここで私が口をはさんでしまうと余計に怒り出しそうなので、内田さんがひとしきり怒るのをただじっと聞いていました。
なんとこの怒りは、1時間以上続きました。仲を取り持ってと言っていたのに。私は少し意外な展開に戸惑いました。きちんと謝って頭を下げたら、振り上げた拳も下ろしてくれると思っていたのです。
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