歴史の転換点は、常に物流業界の転換点でもあるといえます。グローバル化の進展、テクノロジーの開発競争が繰り広げられる現在においても、当然のごとく社会経済の下支えの役割を担うことを求められ、その要求に応えています。日本の物流業界がどのような経緯を経て今の姿となったのか、戦後日本を背景に紐解いていきます。

戦時下の旧体制が撤廃され「競争の時代」に突入

運輸省としては、別途先行して進められていた道路運送法と同時に、通運事業法を成立させる腹積もりであったようですが、法案に対しGHQから「日本通運株式会社の廃止」などといった要請が入り、過度経済力集中排除法の指定を受けた日本通運をいかに再編成するかを含め、方向性を示さねばなりませんでした。こうした調整に手間取り、最終案が確定したのは、1949年11月のことでした。

 

そして通運事業法とともに「日本通運株式会社法を廃止する法律案」と「日本国有鉄道の所有地内にある日本通運株式会社の施設の処理等に関する法律」が提出されました。これら一連の法案により、行政による通運業者の監督、国策会社の市場独占という構図は完全に払しょくされ、旧法体系の抜本的改革がなされたのです。

 

通運事業法が施行されたのは、1950年2月1日のこと。公益社団法人全国通運連盟の『通運連盟史』では、旧法の「小運送業法」と比較した場合の新法の特徴として、次のような点を挙げています。

 

①旧法の「小運送」の名称を「通運」に替えるとともに、旧法では自動車貨物に係わる取扱業や利用運送業も小運送業に含まれていたのに対し、新法は通運行為を鉄道貨物運送に替わる次の5つの行為(新法第二条)に限定したこと。

 

一:自己の名をもつてする鉄道(軌道及び日本国有鉄道の経営する航路を含む。以下同じ)による物品運送の取次又は運送物品の鉄道からの受取

二:鉄道により運送される物品の他人の名をもつてする鉄道への託送又は鉄道からの受取

三:鉄道により運送される物品の集貨又は配達(海上におけるものを除く)

四:鉄道により運送される物品の鉄道の車両(日本国有鉄道の経営する航路の船舶を含む)への積込又は取卸

五:鉄道を利用してする物品の運送

 

②新しく免許を受けようとする者の事業基準を設け、その基準に適合すると認めたときに免許を与えるとしたこと(新法第6条)。旧法は第二条で「小運送業を営まんとする者は主務大臣の免許を受くべし」と規定しているだけで、免許基準には触れていなかった。

 

③事業の公共性に鑑み、特別な場合を除き事業者に通運の引受義務を課したこと(新法第一7条)。旧法には規程はなかった。

 

④利用者保護の観点から、事業者は通運行為の法律関係と荷主に対する責任を明確にした通運規約を定め、許可を受けなければならないとしたこと(新法第二1条)。旧法には規程はなかった。

 

⑤日本通運株式会社法において日本通運の事業としてのみ認めてきた通運計算事業を許可制とし、この事業を行う者の計算契約の引受業務および契約の強制の禁止規定を設けることにより、日本通運以外の新規事業者の参入への道を拓いたこと(新法第二8条)。

 

⑥通運行政の公正を期すため、運輸大臣の権限とする免許、許可、認可などの処分を行おうとする際は、すべて運輸審議会に諮り、その決定を尊重しなければならないとしたこと(新法第三3条)。

 

⑦道路運送法と新法の両法の適応を受ける事項について手続きの重複を省略するなどの調整措置を図ったこと(新法13条および附則)。

 

1937年以来約13年に渡り続いてきた旧体制の規範、小運送業法および日本通運株式会社法が、完全に撤廃されました。それに伴い、国策会社として各駅での運送業務を取りまとめていた日本通運は、民営化されて一商事となりました。

 

なお、国鉄の所有地内にあった日本通運の施設は、すべての業者が利用できるようにするため、国鉄に譲渡されました。日本通運の『社史』には、施設の具体的な譲渡内容が掲載されています(図表2参照)。

 

出典:日本通運株式会社『社史』
[図表2]国鉄への日本通運譲渡施設 出典:日本通運株式会社『社史』

 

その後、新法で登場した「通運」という言葉が、「小運送」に替わり一般化していくことになります。

 

こうして通運事業は、日本通運、地区通運会社、そして新規免許業者という三者の競合のなかで行われることとなり、「競争の時代」へと突入していきます。

 

 

鈴木朝生

丸共通運株式会社 代表取締役

 

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    鈴木 朝生

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