相続人にとっての遺言書の重要性は周知されつつありますが「書いてもらえば安心」といい切れないのが難しいところです。相続発生後、内容の異なる複数の遺言書が出てくるケースは少なくありません。本記事では、長年にわたって相続案件を幅広く扱ってきた高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

相続するつもりだった「2億円の不動産」が妹名義に!?

さて、ここからが本記事の本題です。せっかく書いてもらった遺言書も、書いてもらいっ放しでは安心できないという話です。

 

前述のケースでは、Xさんは生前のAさんに頼んで「Xさんに世田谷区の不動産を相続させる」という遺言を書いてもらっていたとします。

 

しかし、いざ、Aさんが亡くなったあとに調べてみたら、遺言を書いたあとで、世田谷区の2億円の不動産は妹のY子さんの名義に変わっていました。このようなときは、どうなると思いますか? 次の①・②から選んでみてください。

 

①遺言を書いたのが先なので、不動産のY子名義はXの名義に変更できる


②遺言を書いたあとにY子名義にしたことが優先され、Xは不動産を相続できないこととなる

 

答えは、②になります。

 

本ケースのように、特定の財産を誰かに相続させると指定した遺言があるのに、調べてみたら相続開始時点ではそのような遺産はなかった、という場合は少なくありません。

 

このような場合では、遺言者が遺言を書いたのちに処分をしたということがほとんどです。

 

このように、遺言書を書いてもらっても、生前に処分されてしまうと、遺言の取り消しがあったことになるのです(民法1023条2項)。

 

【民法1023条】

〈第一項〉

前の遺言とあとの遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、あとの遺言で前の遺言を取り消したものとみなす。
 

〈第二項〉

前項の規定は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する。

複数の遺言書がある場合「新しい遺言書」が有効になる

また、遺言書は、何度でも書き換えることができます(民法1023条1項)。そのため、複数の遺言書がある場合、新しい遺言書が有効となるのです。

 

例えば、先ほどのケースでXさんは、令和3年1月1日に「Aさんの財産はすべてXさんに相続させる」という遺言を書いてもらっていたとします。

 

ところが、Aさんが亡くなったあとに、「Aさんの財産はすべてY子さんに相続させる」という遺言を、令和3年7月1日に作っていたことが判明したらどうでしょうか。

 

この場合、Xさんへの遺言はY子さんへの遺言と矛盾し取り消されることとなり、あとから作成したY子さんへの遺言が有効となってしまいます。

 

このように、自分に有利な遺言を書いてもらうことは重要ですが、書いてもらったからといって安心はできないのです。

 

 

高島 秀行

高島総合法律事務所
代表弁護士

 

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