「分かりました。この子をしばらく、預かります」
息子の悪いところを次々と並べ立てるこの一流大学医学部を出た医師が、この言葉を発するまでの気苦労はいかばかりであろうと思いながら、私は父親の顔を見ていました。その子はどういう子かというと、成績も悪く、勉強に身を入れる習慣もなく、何につけ、とにかくだらしない生徒でした。私は、その父親に、先ほどの質問をしました。
「お子さんを褒めてあげたことがありますか?」「……」
「お子さんに感謝したことはありますか?」「……」
「そうでしょうね。だからこうなるのです。お父さんを超えさせるためには、お父さんが自ら隙(すき)をつくらないといけないのです。前提は愛してあげることです。親の後ろ姿を見て育てと思わないでください」
「手を握ってあげたことはありますか?」
もちろん答えは「NO」です。
「だから萎縮して引きこもるか、強い劣等感を持って放蕩するしかなくなるのです」
当たり前のことですが、子供は権力、地位、お金、名誉、すべてにわたって立派なお父さんに勝てるはずもありません。なのに、隙を見せるわけでもなく、愛情を示すわけでもなく、自分と同じようにしろ、自分を超えろと言い続けるわけです。
それは相当のプレッシャーです。教訓で育つにはまだ若すぎます。「偉い」と褒められて育つ年ごろです。
「そうですか、分かりました。この子をしばらく、預かります」と思わず私は言ってしまいました。その子の母親はやはり泣いていました。お父さんに
「それでいいですか?」と聞くと、「分かりました。お恥ずかしい」と答えました。「恥ずかしいことはありません。ただ、僕は本気でこの子を何とかしてあげたい。もちろん、この子と、いろいろ話をしながら、そのように考えたのです。とても素直ないい子です。お父さんの言うような子ではありません。世間で通用しない人間に育ててしまったのは、お父さんなのです」とその時、はっきり言いました。
もちろん、一般常識に照らせば、予備校の経営者であり講師という立場を逸脱しています。しかし、人間形成から考えるのであれば、時にそうした決断も致し方ないことなのです。
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