西洋哲学は「学」としての哲学、東洋哲学は「教」としての哲学と捉えることができる。西洋哲学は数学に代表される論理的思考を前提として、世界の本質を言葉で理論的に解明しようとします。これに対して、なぜ東洋哲学は「いかにいきるか」「いかに体得するか」という人生の実践に重点を置くのでしょうか。※本連載は、堀内 勉氏の著書『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

西洋哲学と東洋哲学は「実在」の捉え方も違う

東洋哲学と西洋哲学とでは、「実在」(常住不変の存在)の捉え方も違います。西洋哲学では、伝統的には形而上と形而下、実在と現象といった二元論的な思考方法がされます。プラトンの「イデア(理想)」(目の前にある現象から共通の本質や類型や理念を抽出した理想形)、アリストテレスの「エイドス(形相)」(あるものが存在するのに不可欠な性質を与える本質的な原理)などでは、いずれも真の実在は自然を超越した場所にあるとされています。

 

これに対して東洋哲学では、真の実在は個々人の内面に求められます。たとえば、大乗仏教の経典『華厳経』にある「三界唯一心、心外無別法(さんがいにただいっしんのみ、しんげにべっぽうなし)」(三界の全ての現象は心によってのみ存在し、心が作り出したものであり、その三界にはただひとつの心があるのみだという意味)や、禅宗の「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」(外に向かって悟りを追求せず、まず自分の本性をよく見つめよという意味)などです。

 

また、仏教でいう「浄土」(一切の煩ぼん悩のうやけがれを離れ、五濁(ごじょく)や地獄・餓鬼・畜生の三悪趣がなく、仏や菩薩が住む清浄な国土)と「穢土(えど)」(迷いから抜けられない衆生が住む、けがれた現世)、「涅槃(ねはん)界」(仏教での究極的目標である永遠の平和と安楽の世界)と「煩悩界」(身心を悩まし、苦しめ、煩わせる世界)などの区別も、全て個人の心の反映だとされています。

 

日本を代表する哲学者の西田幾多郎は、親友だった仏教学者の鈴木大拙の影響で始めた参禅を基礎として、東洋思想と西洋哲学を融合させた、日本独自の哲学を築き上げました。西田の哲学体系は「西田哲学」と呼ばれ、日本初の独創的哲学として大正から昭和初期にかけて大きな反響を呼びました。

 

西田は、近代西洋哲学を基礎としつつ、西洋哲学の主体と客体という二元論を乗り越えるために、禅の「無の境地」を理論化して、主体と客体が分離される以前のあるがままの「純粋経験」という概念を考えました。主観も客観もない主客合一の純粋経験は、全てを物の実在から見る唯物論や全てを自分という存在から見る観念論とは異なり、現実をある一方向からだけ見ることはしません。

 

このように、主体と客体という区別は抽象の産物に過ぎず、本来はひとつの働きの違う側面であるとした西田の思想は、純粋経験を唯一の実在とした一元論ということができます。

 

堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長

 

 

読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊

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堀内 勉

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