米金利は、4月にかけての急騰が一服し、このところは上げ渋る展開が続いています。FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は「米国の4月雇用統計で、NFP(非農業部門雇用者数)は事前予想を大きく下回るネガティブ・サプライズの結果となり、米10年債利回りが安値を更新した」と述べています。米金利にはどのような影響があったのでしょうか。吉田氏が解説します。

 

これまで「金利差」といってきましたが、その主役は基本的には米金利です。たとえば、今年に入ってからの独国と米国の10年債利回りの推移をみると、ともに上昇トレンドが展開するなか、最大上昇の「幅」は米国のそれが独国のほぼ倍となっています(図表4参照)。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表4]独米金利の推移 (2021年1月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

考えてみれば、グローバリゼーションの時代に、先進国の金利のトレンドは基本的に同じです。米金利は上がっているのに、独金利は下がり続けるというのは、短期を除くと特殊な場合だけでしょう。

 

トレンドは同じでも、ボラティリティーには差が出る。最近は、コロナ・ショック後の景気回復を米国が主導する形となっているため、どうしても米金利の上昇が大きくなりやすいのです。以上からすると、為替の行方は米金利の読み方次第といえるでしょう。

急騰一服し上げ渋る展開続く米金利、今後の見通しは?

米金利は、4月にかけての急騰が一服し、このところは上げ渋る展開が続いています。4月に入ってからは、米景気指標の発表もそれまで以上に「ポジティブ・サプライズ」が増えましたが、それを尻目に、金利はむしろ低下気味となりました。

 

その理由として、筆者は「米金利の上がり過ぎ」を挙げています(図表5参照)。米10年債利回りの90日MAからのかい離率は、一時プラス50%以上に拡大していたところから、足元ではプラス10%程度まで縮小してきました。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表5]米10年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

米金利はすぐに上昇再燃に向かうのか?

では、「上がり過ぎ」是正により、金利は上昇再燃に向かうのでしょうか。先週はイエレン米財務長官のインフレ懸念と金利上昇についての発言などを受けて、改めて金利上昇への注目が高まりました。

 

ただ著者は、金利上昇の再燃、具体的には米10年債利回りが4月初めに記録した高値を更新するまでには、半年以上といった具合に、意外に長い時間がかかるのではないかと考えています。

 

今回のように、米10年債利回りが90日MAから大きく行き過ぎたケース、具体的にはかい離率が±30%以上となったケースを調べてみると、行き過ぎの一巡は、そもそもトレンドの終了だったことも少なくありません(図表6参照)。

 

また一時的な調整を経てトレンド再開となった場合でも、高値ないし安値を更新するまでには、半年以上といった具合に長い時間がかかっていました。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表6]米10年債利回りと90日MA (2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

筆者は、最近の為替は金利差で決まるようになっており、その金利差の主役は米金利だろうと考えています。米金利が上昇再燃に手こずるのであれば、米ドルも「上げ渋り」が続く、といった可能性が考えられます。

雇用統計の発表受け、米金利が一段と低下する可能性

先週金曜日に発表された、米国の4月雇用統計において、注目されたNFP(非農業部門雇用者数)は事前予想を大きく下回るネガティブ・サプライズの結果となりました。これを受けて、米10年債利回りは安値を更新、一時は1.5%割れとなりました。

 

最近のように、米10年債利回りが90日MAから大きく行き過ぎた動きが本格的に修正されると、90日MAを逆方向にブレークに向かうことが少なくありませんでした。足元の米10年債利回りの90日MAは1.4%程度なので、今回のNFPのネガティブ・サプライズを受けて、90日MA割れへ向かって、米金利が一段と低下する可能性があります。

 

そして、すでに見てきたように、米金利の上昇本格再燃に手こずる可能性が高まっています。為替、米ドル/円は米金利次第と考えると、米ドル高・円安の本格的な再燃は「先の話」だといえるでしょう。
 



 

吉田恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

 

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

 

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