現役教師の小林宣洋氏は書籍『教育現場の光と闇~学校も所詮〔白い巨塔〕~』のなかで、教諭と生徒の「ピアス」をめぐる諸問題を紹介しています。

「生徒は教師の言う通りにしていればいいんだ!」

しかし、校長室での三者による話し合いや職員会議や毎朝の打ち合わせでの討議は元より、職員室における日常会話などからも、「生徒は教師の言う通りにしていればいいんだ!」という強い姿勢が色濃く出た空気がありありと伝わってきていた。

 

反対に、保護者の意向には柔軟に対応し得る、そうした雰囲気は何となく感じられており、何かにつけて保護者が学校に怒鳴り込んできたり、教育委員会に直接訴えたりされるケースが少なくなく、そうした保護者の発信に対する現場の教師の弱い立場を露呈しているかのように感じられもした。

 

そして、それを感じていたからこそ、私の作戦として、「保護者の意向」を実際の母親の話を誇張して発信し、それを盾にとって討論を繰り広げようという思惑が、少なからずあったこともまた間違いがないように思われるのだった。

 

学校における文化の創造・変容に関わる子どもの価値観の影響力のなさは、なかなか教員以外の人には伝わりにくいのだろうか。

 

少なくともピアスという文化は、ミニスカートやルーズソックスといった服装の域を超え、しかも身体に傷を付けるという行為が伴うため、いわば相当時代の進んだ、あるいは、異文化の装飾品である。

 

そうしたものを学校文化に取り入れたいという子どもの言葉は、まずほとんど教師には届かないと言って良いだろう。前述の「端から却下だよ」という中学校教師の言葉からも十分に推察される。そのことをT男自身もある程度理解できているようで、それゆえに、「自分で適当にやるから」という言葉を発していたと考えられる。

 

そこを打開する突破口としての母親の役割が大きかったというのが私の見立てだった。

 

以上のことを『修士論文』で論じてから15年が経った。令和2年現在、ピアスが許されている公立中学校は皆無と言って良いだろう。そして、そうした状況に何ら不満もないし、むしろ、当然のこととは思われる。

 

大規模・中規模の中学校も経験し、私の身に刻み込まれた何かがそう思わせるのだろう。現任校の2年生女子で、ピアスの穴を開け、ふさぐことを拒んでいた生徒がいるのだが、果たして、この事例が生かされる余地はあるだろうか……。

 

「端から却下だよ」の学校文化は強固に息づいており、私もどっぷりと浸かっている。

 

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小林 宣洋
1988年、東京学芸大学教育学部保健体育科卒業。2校での非常勤講師を経て、1989年東京都公立学校に新規採用される。14年間の教員生活の後に2年間休職し、京都で研究・修養に勤しむ。2005年、京都大学大学院教育学研究科臨床教育学専攻修士を修了し、公立中学校教員に復帰。2021年現在、市立中学校体育科教諭。

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『教育現場の光と闇~学校も所詮〔白い巨塔〕~』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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