Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アート最大の特徴は1点の作品しか存在しない

アートの価値の決まり方

 

現存するアーティストの作品にこれほどの値がつけられるアートの価格は、一体どのようにして決まるのでしょうか。それは資本主義における市場経済の原理と同様に、需要と供給のバランスというのが、ひとつの要因です。当然、需要が多くて供給が少なければ価格は高くなり、需要が少なく供給が多ければ価格は安くなります。

 

ただ希少性だけで価格が上昇するかといえば、それほど単純なものではありません。アーティストの知名度、制作年代、存命か物故か、制作された作品数はどのくらいか、これからも新たな作品が世に出るのかといったアーティストに関する様々な条件により、価格は決まります。

 

アート作品は、版画やブロンズ彫刻などは別にして、基本的には、作品はオリジナルの一点だけです。この一点の作品しか存在しないということが、アートの一大特徴で、他の商品と比較したときの決定的な差でしょう。

 

作家は数多くの作品を制作しますが、ひとつの作品というのは、そのオリジナル性がさらに無形の価値にまで発展していくときに、アートの価値がはじめて生まれます。

 

アートの価値というのは、目に見えないものですが、そこに「交換価値」が存在するのです。一枚の作品が価値あるものになるためには、それを作り出す一人のアーティストの歩みやそれを支える美術というシステムをひもとく必要があります。高値をつくり出すメカニズムは、ある意味では抽象的な価値の生産と関連しているといえますが、それはアートがつくり出す「物語」とつながっています。この例としては、「美術史」がわかりやすいでしょうか。

 

ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が素晴らしい芸術作品であると思えるのは、私たちが美術史の中で・モナ・リザ・を学ぶからです。美の殿堂であるルーブル美術館に展示され、歴代の専門家たちによって、その素晴らしさを説明されて、人類の宝だと教えられてきたからにほかなりません。

 

欧米の美術だけに限りません。日本の美術も同様です。茶の世界には、手のひらに乗る小さな茶入れひとつが、国の価値と同等だった信長や秀吉の時代がありました。またそれらは今日まで重要な美術品として国宝などに指定されて継続されることで美の価値を保持しているといえます。

 

《モナ・リザ》は、ダ・ヴィンチが制作したことがわかっていますが、後者の茶入れを誰がつくったのかは不明です。それでも美を評価する人々により、茶入れは価値づけられてきました。信長、秀吉から後に続く経済的価値と結びつく美の価値基準は、それ以前の足利将軍という権威によって形成されていきました。美の価値は制作者だけでなく、それを承認する人々によって形成されるのです。

 

アートの価格はいかにして決まり、また誰が決めるのか。これらは単純な話ではありませんが、時代ごとの為政者やその周辺に集まる権力者たちが、自らの文化を代表するものとして評価し、愛でてきた歴史の蓄積の結果といえるものです。それは目に見えない価値の長きにわたる集積そのものです。

 

近代に入ると、資産家を中心にして美は専門家の手に委ねられます。美術館、ギャラリー、オークション会社が誕生し、それに付随して、美術史家、美術評論家、美術ジャーナリスト、ギャラリストなど、美術の評価に関わる専門家が生まれました。これらの専門機関、専門家たちにより、美は語られ、取引され、評価されて、やがてアートとしての権威を持つことになるのです。

 

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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