高齢化、人口減少…昨今、マンションを取り囲む状況は極めて厳しいものになっています。大阪経済法科大学経済学部教授の米山秀隆氏の書籍『限界マンション 次に来る空き家問題』(日本経済新聞出版社)より一部を抜粋・編集し、マンションの建て替えの問題点を解説していきます。

マンションの建て替えに潜む問題点とは

今回のケースは、デベロッパー主導の建て替えができず、自主建て替えを行った「六本木一丁目マンション」(港区、建て替え後の名称は「麻布パインクレイスト」)の事例である。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

このマンションは、多数決による建て替え決議によって、建て替えが行われた初めての事例である。このマンションは1972年に建設されたものであるが、コンクリートなどの劣化が著しく、すでに築20数年で建て替えを選択せざるを得ない状況になっていた。

 

バブル期にはデベロッパーが、隣地の市街地再開発事業とともに建て替えを提案し、いったんは建て替え決議を行ったが、その後経済状態が変わったこともあり、デベロッパーが引き上げ、建て替えは頓挫した。

 

困った住民は、知り合いを通じ伊藤滋東京大学名誉教授(都市計画が専門で、政府の都市再生戦略チームの座長などを歴任)に相談し、伊藤氏がコンサルタントを務める形で、建て替えが進められることになった。

 

2000年に再度の建て替え決議がなされたが、その際の条件では、区分所有者が新たに住戸を買い増すことも認められていたため、保留床は19戸に過ぎず、とてもデベロッパーが事業リスクをとって建て替えに参加できる規模ではなかった。

 

このため、自主建て替えを選択せざるを得ない状況となった。保留床のうち、15戸を森ビルに買い取ってもらい、残りを伊藤氏が引き受ける形で事業をスタートした(その後、区分所有者の買い増しが不可能になったケースがあり、伊藤氏の引き受け分は10戸に増加)。

 

伊藤氏は、残りの保留床の購入先を探し、住民側の立場に立った価格交渉や、行政との折衝も含め、建て替えのコーディネートを行った。このケースでは、デベロッパーに代わって、伊藤氏が事業リスクを負担することで、建て替えを進めることができた。通常は、コンサルタントがここまでのリスクを負担することはないが、伊藤氏は、自分が引き取らなければ建て替え事業が進まないという現実の中、リスクを引き受ける決断をした。

 

ただし、当然のことではあるが、伊藤氏はまったくのボランティアだったわけではなく、一定のフィー(総工費の5%)を受け取った。ただしこの額は、デベロッパーが事業協力者になった場合に得る利益に比べればはるかに少額である。

 

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限界マンション 次に来る空き家問題

限界マンション 次に来る空き家問題

米山 秀隆

日本経済新聞出版社

進む、建物の老朽化と住民の高齢化。 老朽化マンションの放置・スラム化は不可避なのか? マンションは終の棲家にならないのか? ▼老朽化したマンションの末路は、スラムか廃墟か。居住者の高齢化と建物の老朽化という「2…

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