保育士の給与や処遇が改善しない背景に、保育所の収入が「子どもの人数」で決まる構造、そして「福祉サービス」によるお金儲けを許さない古い価値観があります。保育ビジネスの発展を阻害する諸問題を、解決する糸口はあるのでしょうか? 保育園経営の実情を探ります。

保育業界に不足する「保育園はサービス業」という意識

筆者が経営者に保育ビジネスに参入してほしい理由は、「保育はサービス業である」という精神が保育業界にはまだまだ不足していると思うからです。

 

もっとも、筆者は「お客さまは神様です」という発想はおかしいと思っていますので、あくまでもお互いに敬意をもったうえでサービス業としての配慮が必要だと思います。そうした意味でも、最近の病院の「患者さま」は好きになれません。

 

筆者が驚いたのは、保育園や幼稚園は、意外と諸経費を徴収しているということでした。誕生日イベントで子どもに渡すプレゼント代を保護者から徴収することも珍しくありません。

 

誕生日に食事に行き、お店側がサプライズでケーキを出してくれたと思ったら、ちゃっかり請求されていたとは笑い話のようですが、それが保育園なのです。

 

未満児の場合、オムツどころかおしり拭き(ウェットティッシュ)まで持参させることが一般的です。保育園では、トイレトレーニングの一環で同じタイミングでトイレに行き、オムツを交換しますが、そのときにどうするのか保育士に質問すると「一人ひとりの分を用意して使っていました」とのことでした。

 

我々の保育園に転職した保育士は、あらゆる場面で驚かれますが、おしり拭きを保育園が提供しているということもその一つです。

 

我々の保育園では年間2400円の保険料と年間300円の教材費以外を徴収しませんし、それも来年度から廃止することにしました。それでも、我々の保育事業はお金を残してくれます。いったい、既存の保育園はどこにお金が消えているのでしょう。

保育園が「商売」なら、保護者への対応は「接客」

一方で、保育士側にもサービス業としての意識が必要かと思います。我々の保育園ではありませんが、インターネット上では保育士の厳しい意見をよく見ます。その代表例が「仕事が終わってんならさっさと迎えに来い!」です。

 

閉園時間になっても迎えに来ないのであれば分かりますが、短時間保育でもない限り、閉園時間まで子どもを預けてもなんの問題もありません。

 

もちろん、なるべくママと接する時間を長くもってほしいという保育士の気持ちも理解できますが、筆者は介護事業者でもあり、介護事業には「レスパイトケア」という概念があります。

 

レスパイトケアとは、介護をしている家族などが一時的に介護から解放され、休息を摂れるように支援することです。家族の介護に携わっていると、知らず知らずのうちに精神的にも肉体的にも負担を感じるようになり、ちょっとしたことで感情的になるので、その怒りの方向が高齢者に向けられてしまうことを未然に防ぐ意味もあります。

 

おそらく、育児経験者であれば、仕事で余裕がないときに、つい子どもに厳しく接してしまった経験をおもちでしょう。それが児童虐待に発展しないとはいいきれません。

 

保育園は、園内だけで子どもの安全が守られればよいわけではありません。悲しいことですが、子どもの安全を脅かす存在が保護者かもしれないという観点をもてば、仕事が終わって息抜きをしてから迎えに来たっていいじゃないかと思えるようになります。

 

筆者は、このレスパイトケアの考えを保育士に強烈に伝えるために面接でこんな話をします。「子どもを一時預かり保育に預けてパチンコに行くほうが、駐車場に子どもを放置してパチンコをやっているよりマシです」と。もちろん、「ただし、あまりにも頻度が多いときは、ギャンブル依存症や育児放棄の疑いがあるので、そこはプロとして関係機関に相談しなければいけない」と付け加えています。

 

前項で述べたように、保育園を商売と考えるならば、保育士が業務として子どものお世話をする役務が商品であり、保護者と接しているときは接客なのです。

 

決して保育士に「〇〇さまのお子さまの本日のご様子は……」と対応してほしいと言っているのではなく、保護者の方が働いているからこそ、我々は税金をもらって保育園を運営しているのであり、勤労に感謝し、保護者への敬意を忘れてはならないと思います。

 

 

河村 憲良

株式会社Five Boxes 代表取締役

 

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