日本の中小企業では「後継者不足」が問題になっており、「事業承継」は有効な対策の一つです。今回は、親子で経営しているガソリンスタンドの事業承継の失敗例から、成功に導くヒントを解説します。※本連載は、中野公認会計士事務所の著書『失敗しない理由がある 事業承継の成功例失敗例』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

法律を盾に親の意見を排除すると、さらに関係が悪化

伸吾は相続対策を兼ねて大介に株式を贈与していたので、大介が筆頭株主となっています。また、株主の多くは大介の会社経営に理解を示しており、大介は取締役会、株主総会をコントロールすることができました。したがって、伸吾が反対するような大きな経営判断が必要な議題でも、最終的に大介が多数決で強行突破するような場面もありました。

 

その経営判断が間違っていなくても、伸吾は自分の意見が一切考慮されずに無視されてしまったという意識を持つようになりました。その結果、何かを決めるたびに感情的になり、大介のやること全てに反対するような状況に陥ってしまったのです。

 

株主のなかには、一歩引いて大介に経営を全面的に任せてみてはどうかと、伸吾に進言してくれる者もいましたが、伸吾は法律を盾に自分の意見を押し通す大介が許せませんでした。

 

大介は周りの意見はしっかり聞きますが、伸吾に対してだけは頑なに反抗していました。ある意味で伸吾のワンマンな性格が、子である大介に引き継がれている結果だと周囲の株主は話していました。

 

大介は伸吾を取締役から排除することも検討し始めましたが、株主の多くは、伸吾が苦労を重ねて洛南商事を築き上げてきた経緯を知っており、伸吾を取締役から排除するのは時期尚早と考えていました。

 

最終的に、単独で過半数の株式を保有していない大介は、株主総会で過半数の同意が得られず、伸吾を取締役から排除することはできずにいました。

親子喧嘩に余計な労力を使うと、迅速な経営判断は不可

洛南商事の場合は、多くの株主が大介の経営手腕を見込んでおり、株主総会と取締役会を大介がコントロールすることができました。したがって、会長伸吾の意見を聞き入れることなく大介の方針に従った経営判断を実行してきました。

 

しかし、あらゆる議題で伸吾が反対するため、議案の説明、説得、採決に余計な労力を使ってしまいます。このような状況では、迅速な経営判断を下すことに支障が生じることは間違いありません。

 

現状では経費削減と効率運営によってなんとか利益を確保するにとどまり、抜本的な業績改善には至っていません。一刻も早く売上を伸ばして経営を安定軌道に乗せなければならない大事な時期に、全社を巻き込んで親子喧嘩に労力、時間を割かれていたのでは何をやっているのかわかりません。

 

親子の仲が良好で、阿吽の呼吸で物事を進めることができたら余計な労力は使わずに、今以上に経営に専念できる状況を作り出すことができるでしょう。

親子が不仲だと「事業承継や相続税対策」は困難になる

事業承継や相続税対策は、親が子に事業や財産を承継させたいという思いがあって初めて実現するものです。親子が不仲であれば、親が子へ株式や社長の座を渡そうとしない事態も考えられます。いつまでも親が社長の座に居座って株式を握ったままでは、いざ親が死亡した時に、後継者不在、多額の相続税負担等の問題が一気に顕在化します。

 

特に非上場株式は、経営努力により株式価値を高めても売却換金する市場がなく、また、支配権にこだわるなら簡単に換金することはできません。したがって、相続財産の大部分が非上場株式であれば、相続税を支払う現預金が不足する事態も想定されます。

 

株式の移動は一朝一夕で解決できる問題ではありません。親子が協力して長期間にわたり移動計画を作成し、実施していく必要があります。

 

会長である伸吾は、長男である大介を後継者にするつもりで、大介に自社株式を長年にわたり継続的に贈与してきました。そのため、現時点では株式の大部分が後継者である大介に移動しています。

 

株式の移動は完了し、先代がまだ代表権を有するものの後継者は既に代表権を持っており、形式的には事業承継は完結しています。しかし、実質的な事業承継はうまくいっていないというのが実情です。

 

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