高齢化、人口減少…昨今、マンションを取り囲む状況は極めて厳しいものになっています。大阪経済法科大学経済学部教授の米山秀隆氏の書籍『限界マンション 次に来る空き家問題』(日本経済新聞出版社)より一部を抜粋・編集し、マンションの建て替えの問題点を解説していきます。

【建て替え事例】マンション建て替えの現実

以下では、最近の事例で、建て替えに際し困難に直面しながら建て替えを行った2つのケースを簡単に紹介していこう。

 

■同潤会江戸川アパートメントのケース

 

第一のケースは、1934年に建築された「同潤会江戸川アパートメント」(新宿区、建て替え後の名称は「アトラス江戸川アパートメント」)の事例である。江戸川アパートメントは、同潤会アパートとしては最後に建築され、エレベーターやセントラルヒーティングも備え、竣工当時は東洋一のマンションといわれたほどであった。

 

近代的設備のほか、社交室や中庭、共同浴場、理髪室などが設置され、コミュニティ作りも重視された。

 

これ以前に建て替えられた同潤会アパートは、商業地域にあったことなどにより、第一種市街地再開発事業を活用することで、高い容積率を確保して建て替えを行い、区分所有者は等価交換で従来の面積以上を取得できた。

 

しかし、江戸川アパートメントは、住居系用途地域にあり容積を確保できないため(一部が既存不適格であった)、等価交換で取得できる面積(還元率)は50%程度に過ぎず、建て替えに際して住民の追加負担が生じざるを得ないケースであった。

 

つまりは、残り50%の分は自分で費用負担しなければ、同じ面積を確保できないということで、これまでのマンション建て替えでもっとも条件の厳しいケースであった。

 

江戸川アパートメントでは1960年代後半に建物の一部に傾きが生じたこともあり、1970年代初めから建て替えの検討が進められてきたが、なかなか具体化できなかった。1990年代には基本計画をまとめデベロッパーを選定しながらも、実現に至らなかった経線がある。

 

その後は自主再建を目指したが、全員合意を得られるメドも立たないまま、老朽化はますます進み、建て替えを急ぐ必要性が高まっていった。2000年以降は、再びデベロッパーの協力を仰ぐ方針に転換し、2001年にはデベロッパーを選定した。

 

その後、住民の意見を聴取して計画を作成し、2002年3月に、ようやく総会で建て替え決議を多数決で可決するに至った。

 

建て替え前の居住状況は、総戸数258戸のうち、区分所有者による居住、賃借人の居住、空き家・倉庫等がそれぞれ3分の1程度だった。区分所有者総数223名のうち、2002年3月の決議で賛成したのは192名であった(その後の話し合いにより賛成数はさらに増加)。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

区分所有者の中には、高齢で建て替え費用を負担できないため、建て替え後に戻りたくても戻れない人もいたが、そうした人については、管理組合で管理する共用部分に住戸を設けて、低家賃で生涯住むことのできる仕組みを設けた(生涯借家制度)。

 

こうして、江戸川アパートメントは、築70年あまりでようやく建て替えられ、2005年に竣工した。建て替え後の総戸数240戸のうち、保留床として分譲されたのは106戸であった。

 

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