いうまでもなく、マイホームの購入には莫大なお金がかかります。手持ちの現金で支払うか、住宅ローンを利用するかで悩む人はとても多いでしょう。住宅ローンを利用する場合、購入できるだけのお金を借りられるかどうかは金融機関次第。審査に何の不安もなかった「年収1000万円の人」が落ちたり、逆に落ちるかもしれないと思っていた「年収300万円の人」が通過したりと、意外にも消費者が知らない審査条件があるようです。※本連載は屋敷康蔵氏の著書『人生を賭けて「家」を買った人の末路』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

事前審査に落ちる原因…支払遅延や名義貸しは即アウト

「ブラックリスト」「金融事故」などいろいろな表現がありますが、金融機関はまず、あなたがこれに該当するかしないか、そこを知りたがります。

 

「俺はブラックじゃないし」「そんなこと身に覚えがない」「ブラックなんて失礼な」なんていう声が聞こえてきそうですね。だからこそ、金融機関や住宅メーカーの人達は、「あなたがブラックかどうか調べさせてください」ではなく、「事前審査をしましょう」と言うわけです。

 

ちなみに「ブラック」の定義は広いです。過去に借金を踏み倒して不払いの経験がある「真性ブラック」の人だけを指しているわけではありません。最終的にはきちんと支払ったとしても、「過去に支払いに遅れがあった人」「債務整理をしたことがある人」「他人の保証人となり信用情報を汚してしまった人」「カードで名義貸しをしてしまったことがある人」など、さまざまです。自分自身では身に覚えがない「無自覚ブラック」の人も案外多いのです。

 

それを調べるための「事前審査」です。事前審査に必要な書類は非常に簡易的で、金融機関によっては免許証のコピーだけでもOKなんていうところもあります。それもそのはず、ここでは基本的にその人の「信用情報」(ブラックかそうじゃないか)を確認するだけの作業ですから。

 

年収や勤務先・勤続年数は、「ブラックではない」ことを事前審査で確認した後の、本審査での話です。たとえ現在の年収が1000万円オーバーだろうと、どんな一流企業に勤めていようと、「ブラック」が判明したら、その段階ですべてがアウトなわけですね。

 

悲しい現実ではありますが、住宅ローン審査において、金融機関は相手の将来性や現在の頑張りなどには関心がないのです。金融機関に提出する源泉徴収や所得証明もそうです。必要なのは直近「過去1年分や3年分」であり、これから先の見込み収入を出してくれとは絶対に言いません。

 

世間ではよくこう言います。「過去は振り返るな! 大切なのは今だ」と。しかし、残念なことに金融機関はそうはいきません。すべてはあなたの「過去! 過去! 過去!」なんですね。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

「伴侶に内緒で借金している人」が審査前にすべきこと

次に、「見えない借金」についてもお話ししておこうと思います。

 

住宅メーカーの営業マンがお客様に住宅ローン「事前審査」を促すお話をしている際、時々起こることがあります。それまでにこやかに前向きに打ち合わせをしていたのに、「事前審査」の言葉を聞いた瞬間、急に「ご主人」もしくは「奥様」のどちらかが浮かない顔つきになったり、審査自体に及び腰になったりすることがあるのです。そういう場合は、ご主人(あるいは奥様)が、伴侶に内緒の借入れをしていることが多いのです。

 

一般の銀行系カードであれば、たいていは家族も知っている借入れでしょうが、消費者金融系の借入れだと、「伴侶に内緒の借金」ということがあるのです。もちろん、銀行の住宅ローン審査ではきちんと既存借入れの申告も必要になります。事前審査時に、個人の「信用情報」を取得すれば、既存借入れの件数と借入残高もすぐに判明します。

 

「調べて分かるものなら、わざわざ申告しなくたっていいじゃないか」なんて思われる方もいるかもしれませんが、審査では「自分の借金をきちんと自身で把握しているか」ということも重要なのです。ですから、きちんと自分で「借入れの件数」や「借りている金融機関」「残債」を申告する必要があります。

 

この借金の申告件数や金額があまりにも乖離していると、当然、事前審査は通りません。ごまかせるものではないのです。そりゃそうですよね。本人がどこの機関からいくら借りているのかも分からない人に、金融機関が「住宅ローン」という長期的で大きなお金を貸すはずがありません。

 

土壇場で秘密の借金の発覚を恐れて、住宅ローン審査に躊躇(ちゅうちょ)する人の中には、理由も言わず頑(かたく)なに審査を拒否する人もいれば、後でコッソリと営業マンに「実は嫁には内緒で…」と相談してくるお客様もいます。

 

いずれにしても、どのタイミングでカミングアウトしても、修羅場になるのは目に見えているので、住宅ローンを組む前に「内緒の借入れ」を完済しておくか、せめて配偶者には伝えておくことが必要でしょう。

年収1000万円で落ちた人、300万円で通った人の違い

金融機関の審査の焦点が、「現在」のあなたではなく、あくまで「過去」のあなたであることはお話ししてきたとおりですが、逆に過去に「やらかした」人でも審査に通るケースをご紹介します。

 

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【住宅メーカーに来たお客様Aと、お客様Bの違い】

 

Aさんはある上場企業に勤めており、年収は1000万円近くあります。乗っている車も高級車で、奥様は専業主婦でかなりのブランド好き。

 

一方のBさんは年収300万円で、奥様はパート勤め。夫婦の合算世帯年収は400万円程度です。

 

普通に考えれば、Aさんのほうが上客で、Bさんはカツカツの綱渡り状態と思いがちですが、結果はAさんが審査に落ち、Bさんが審査を通過しました。

 

なぜでしょう? Aさんは収入に対してあまりにも既存のローン支払いが多過ぎたのです。ご主人の車のローンに加えて奥様の車のローン、クレジットカードも複数枚保有し、キャッシング枠もショッピング枠も限度額いっぱいまで利用。さらに致命的だったのは、過去に何度か支払い遅延が発生していたことです。

 

住宅ローンの審査では、既存の借入れは毎月の返済額を軸に減額されていきます。ブラックではなかったので、支払いの遅れを解消して正常な支払いに戻せば、借入れ自体はまったくの不可能ではありませんでしたが、相当減額されることでしょう。

「過去にやらかした人」でも7~10年経てば信用回復

実は、Bさんのほうには致命的な過去がありました。Bさんは正直で、「実は過去に債務整理したことがある」と報告してきたのです。担当営業だった私も、さすがにその時点で無理だ…と思いました。しかし、「ちなみに債務整理はいつ頃の話ですか?」と聞くと、「任意整理の支払いが終わって、10年くらいは経つ」とのこと。

 

この「債務整理から10年経過」という年数に可能性を見出し、事前審査に申込みをしたところ、なんと無事審査通過の報告がきたのです。そして今、Bさんは念願のマイホームを手に入れてそこに住んでいます。

 

私も信用情報の照会では内心ハラハラしたものの、実は債務整理から7〜10年も経過すれば、「事故情報」は信用情報から抹消される、いわば「敗者復活のチャンス」が与えられる仕組みになっているのです。

 

おまけに、Bさんは債務整理のため金融機関から借入れができない状態になっていたため、クレジットカードなども持ち合わせていませんでした。つまり、信用情報を照会しても「無借金」のホワイトな人に生まれ変わっていたというわけですね。厳密にいうと、お金を「借りなかった」のではなく「借りられなかった」だけなんですけどね。

 

ちなみに、住宅ローンの審査では、クレジットカードは実際には使っていなくても、利用限度額がそのまま借入れとみなされます。つまり、100万円の限度額のカードを50万円しか使っていなくても、いつでも100万円借りられる状況を踏まえ100万円借りているのと同じこととみなされ、「負債」として計算されるので気をつけましょう。

 

審査の結果には、「条件付」という金融機関からの回答がくる場合があります。これは「融資実行前までに車のローンの完済条件付」や、「カードローンの完済条件付」といった、住宅ローンを組む前に借金を減らしておかなくてはならない条件のことをいいます。

 

年収が高くて小金も持っているのに住宅ローンを組めない人もいれば、過去に「ブラック」となっても、その黒い過去を清算し、住宅ローンを組むことができる人もいる。実に人生はさまざまです。

 

でも、注意してくださいね。「よかった、よかった。昔やらかしたことがあるから、審査に通らないと思ったよ」なんてこと、間違っても金融機関の人に公言しないように! 金融機関側もそんな事実を聞いてしまった以上は、貸すことができなくなりますから…。

 

 

屋敷 康蔵

一般社団法人建物災害調査協会 理事

 

 

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屋敷 康蔵

PHP研究所

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