NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。女優復帰を果たした千栄子は映画や舞台への出演依頼も相次ぐようになる。小津安二郎監督の『彼岸花』、黒澤明監督の『蜘蛛の巣城』、内田吐夢監督の『宮本武蔵』等々、日本を代表する巨匠たちの作品に出演者として名を連ね、映画に欠かせない存在となっていく。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

千栄子は「大阪の母」から「大阪のおばあちゃん」

千栄子と共演した若い演技者たちのなかには、彼女に「厳しいベテラン」といった印象をもつ者も多い。それもまた、

 

「あんたはもっと気張らんと、生き残られへんよ」

 

という、彼女なりの後輩への激励だったのかもしれない。

 

芸を磨き究めて、監督やディレクターから「この役は、あいつにしかできない」と思われてこそ、本物の役者である。その域に達しない限りは、使う側も切って捨てるのは簡単だ。

 

未熟な女優だった頃には、幾度もそういった体験をして辛酸を嘗めてきた。だから、若者たちにはそれに早く気がついて、生き残る術を身につけて欲しい、と。子を思う母の心境ではなかったか。

 

昭和45年(1970)の大阪は、東京オリンピックとならぶ、戦後最大のイベントである万国博覧会の開催にわいていた。高度経済成長の絶頂期。庶民も自家用車を持つのが普通の世のなかになっている。また、カラーテレビの普及により、ドラマも衣装の色味や女優の化粧に神経を使うようになっていた。

 

カラー放送の色鮮やかな映像に当初は誰もが見惚れたが、慣れてくれば感動は薄れる。日本人の生活もまた、物があふれていることが普通になっている。貧しかった時代のことは忘却の彼方。質素な暮らしや倹約が美徳という意識は薄れ、人々は消費に快楽を求めていた。

 

この年の流行語のひとつに「悪ノリ」というのがあるのだが、千栄子のように苦しい時代を知る者たちからすれば、好景気に浮かれて日本全体が悪ノリしているといった印象が否めない。

 

この年の1月には、テレビ・ドラマ『細うで繁盛期』が放送を開始している。

 

大阪の料亭に生まれたお嬢さんの加代が、伊豆の寂れた温泉旅館に嫁ぎ、様々な苦難にあいながらも、商売繁盛めざして奮闘する物語。

 

高視聴率を稼ぎ、とくに関西地区では40%に迫る驚異的な数字を弾きだした。

 

この成功によって「商魂物」と呼ばれる大阪商人を主人公にしたジャンルもでき、この後も似たようなドラマが続々と製作された。

 

千栄子はこのドラマに、加代の祖母・ゆうの役で出演している。

 

「銭の花は清らかに白い。だが蕾は血がにじんだように赤く、その香りは汗の臭いがする」と、加代が番組の冒頭で語るナレーションのセリフ。そこには大阪商人の生き様や、銭にかける執念を感じさせる。

 

加代にそれを教えたのが、千栄子が演ずるところの祖母だった。加代の回想シーンにたびたび登場しては商人の心構えを説く。

 

ドラマを観る人々はその姿に、倹約と工夫に明け暮れる昔ながらの大阪商人の姿を見た。

 

また、万国博覧会の華やかなイメージに浮かれる者は、

 

「いつまでも、いちびっていたらあかんで」

 

諭されているような気分にもなる。

 

「大阪の母」から「大阪のおばあちゃん」になってしまったが、千栄子は大阪を象徴する人物のひとりであり続ける。

 

『細うで繁盛期』は翌年4月まで放送された。連続ドラマが半年以上続くことも珍しくなかった頃ではあるが、それでも、1年3ヵ月の放送期間は、かなり長い部類である。

 

さらに、昭和47年(1972)1月から第2シリーズ、昭和48年(1973)8月からは新シリーズが放送されている。結局、千栄子が亡くなっても、まだ完結を見ない長寿番組となった。

 

青山 誠
作家

 

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浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

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