(※画像はイメージです/PIXTA)

他人より優位に立ちたいという欲求、言い換えると「相対的ニーズ」には限りがありません。このニーズによる経済の牽引は可能ですが、環境・資源といった問題が全地球的な懸念となっている現在、もう許されることではないでしょう。嫉妬・羨望を生むあざといマーケティング、それで成り立ってきたディストピアについて見ていきましょう。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

「無限の成長」「無限の加熱」の行きつく先

たしかに、この「無限性」は資本主義ととても馴染みが良いように思われます。というのも先述した通り、資本は原理的に「無限の成長」を求めるからです。

 

しかし、この無限性は容易に「奢侈」へと接続されてしまう。20世紀前半までの時代であれば、そのような「無限性」にはさしたる問題がなかったかもしれませんが、これまでに考察してきた通り、すでに自然・環境・資源といった問題が全地球的な懸念となっている現在、そのような方向で経済を駆動することは倫理的・物理的に許容されません。

 

加えて指摘すれば、このような方向で経済を牽引することは社会的対立の構造を強化してしまうことにもなります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

日常的な必要が満たされてしまったのちの世界において、経済を駆動するのが「他人への優越を示すためのニーズ」なのだとすれば、経済活動そのものが社会における優越・劣等の関係を決定するゲームとなり、「無限の過熱」を免れないことになるでしょう。しかし、そのような「無限の過熱」はいずれメルトダウンを起こすしかありません。

 

事実、現在の世界にはそのような「メルトダウン=倫理の底抜け現象」がそこかしこに見られます。わかりやすい例が高級スポーツカーの世界です。

 

2019年の9月、フォルクスワーゲングループ傘下のハイパーカーブランド、ブガッティは新型車シロンを発表しました。呆れるのはその性能と価格で、出力は1500馬力で最高速度は時速490キロ、価格は260万ユーロ(約3億円)となっています。

 

こういった自動車が走行できる舗装の整備された国にはほぼ例外なく速度制限がありますから、このような馬鹿げた性能を発揮させる場所は事実上、地球上にはありません。つまり、こういった自動車を購入する人にとって、その性能はあくまで「記号=メッセージ」でしかない、ということです。

 

シロンのオーナーが所有したがる「記号」は明白で、それはつまり「君の負けだ、無駄な抵抗はやめろ」というメッセージです。最近は「スーパーカー」のさらに上をいくカテゴリーとして「ハイパーカー」なるセグメントが設定されているようですが、ここにも「格差・階級」をより細分化することで嫉妬・羨望・劣情を社会に生み出し、その「負の感情エネルギー」を解消させるために購買行動を喚起させようというあざといマーケティング戦略が透けて見えます。

 

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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