衰退するきもの業界で勝負を賭け、東日本大震災で甚大な被害を被りながらも、大ヒット商品となった「防水機能のある和装肌着」を開発・ビジネスを再起させた筆者が、日々の試行錯誤から生み出した「ヒットの法則」を紹介します。

「伝統の継承にこそ価値がある」という考えは捨てよ

歴史のある企業や業界には、長年にわたって引き継がれてきた伝統があります。しかし、伝統を過度に絶対視する態度はイノベーションの強敵です。もちろん、伝統そのものを否定するつもりはありません。長い月日をかけて継承されてきた伝統は、多くの人が関わって磨いてきたものです。それゆえに洗練されていますし、深みがあるものです。

 

例えば茶道には、「最後に茶室に入った人は、ピシッと大きな音を立ててふすまを閉める」というマナーがあります。これは、茶室の外で待っている主人(ホスト)に、すべての客人(ゲスト)が入室したことを知らせるのが目的です。お茶席と聞くと、参加者はずっと静かにしているというイメージがあるかもしれません。しかし実際には、参加者は必要な音を出すことで他者を気遣っているのです。マナーやルールは単なる形式ではなく、本質部分にきちんとした存在理由があるものです。

 

このように、伝統には長い月日をかけて洗練された美しさがあります。また、ものづくり系の企業であれば、長年にわたって継承してきた技術こそが競争力の源になっているというケースもあるでしょう。でも残り続けているもののほとんどは必ずといっていいほど、時代に合わせた変化をしています。お茶の作法もそのときの宗匠の手により、加えられたり削られたりして今があります。

 

歌舞伎の伝統的技法を守りながらも現代的な演劇の設備、テーマを採り入れた、スーパー歌舞伎の登場も良い例だと思います。

 

きもの業界にも、たくさんの伝統があります。例えば、きものの着方はその一つですが、どれだけ続けば伝統といっていいものなのでしょうか。ずっと昔から続いているように思われがちですが、時代の流れによってきものの着方は変わってきているのです。

 

絹織物業が産業として盛んになったのは、江戸時代です。それまではある程度身分の高い人でも、木綿製のきものを着ていました。そしてさらに前の時代には、ほぼすべての日本人が麻製のきものを着ていたのです。現代においてスタンダードとされている絹製のきものには、せいぜい200年あまりの歴史しかありません。また、現代において最もオーソドックスな帯の結び方である「お太鼓結び」も、江戸時代後期に発案されました。当時のお太鼓結びは、とても斬新で最先端のファッションだったわけです。

 

最先端ファッションでも、残るものと残らないものがあるはずです。それはなにがそうさせるのかといえば「本物かそうでないか」ということなのでしょう。必ずふるいにかけられ、残るべくして残るのです。

 

きものの世界には、「きもの警察」などという言葉があります。これは伝統的なきものの着方に固執する人たちがそれにそぐわない人たちを取り締まるような言動を指しています。でも、思うのです。残るか残らないかで必ず答えが出るのですから人がジャッジするものではないと。互いを尊重し、奨励し合いたいものです。それでこそ、きものを楽しむ人が増えていくことでしょう。

 

10年ちょっと前、女優の蒼井優さんが主演していたコミックが原作の『おせん』というテレビドラマを見たことがあります。蒼井さんは老舗料亭の若女将役で、色鮮やかな銘仙(平織りの絹織物)のきもの姿がとても印象的でした。このドラマの放送からさらに10年ほど前くらいから、都会ではアンティークきものブームが起き、きものを着る若い女性が増えていました。そしてあのドラマによって、その洗練されたアンティークブームは日本中に広がった気がします。

 

銘仙は、染め付けが面白い織物です。縦糸だけで図柄を表すことで安価なものづくりが可能になりました。使用する糸も安価なものを使用し、人絹と呼ばれるレーヨン素材も取り込みました。さらには世界中の意匠を図柄として、大胆でビビッドな色合いの柄をつくり出したのです。銘仙が盛んになった当時はセンセーショナルな話題を呼び、瞬く間に市場を席巻しました。テキスタイルとしても斬新なため、ブーツやタートルネックのセーターなどと合わせると、びっくりするほどおしゃれな装いになり、現代女性の好みにも合ったのでしょう。

 

銘仙も伝統のなかでのイノベーターです。伝統にこだわりすぎると、銘仙のアンティークきもののような新しいスタイルは生まれません。伝統は尊重しつつ、でも、果敢に新しい糸口は常に探し続けるというのがとても大切です。

 

 

髙橋 和江

有限会社たかはし代表

和装肌着製造メーカー「たかはしきもの工房」代表

きものナビゲーター

 

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