これまでの資本主義社会は「時間によって資本の価値が増殖する」ことを前提にしてきました。しかし、金利はゼロになり、「間を経れば成長する」という期待ももてなくなったことで、時間に価値がなくなってしまいました。そうなると、「より良い未来のために、いまを手段化する」という考え方も否定され、人類は大きな転換点に差し掛かります。そこでこれから向かうと言われる「才能主義」について山口周氏が解説します。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

成長が終わった「高原状態」の社会における課題

では資本に変わるものはなんなのか?

 

シュワブは「資本主義から才能主義への転換」と記者に答えています。「才能」とは言い換えてみれば「個性」ということです。いま、この世界に生きている人々が、各自の衝動に基づいて発揮する個性こそが、社会をより豊かで瑞々しいものに変えていく。そういう未来を「才能主義」と言っているのです。

 

ここでもまた「経済発展」だけをいたずらに目指すのではなく、「より良い社会」の実現に、私たち人間のもっている才能や時間という資源を投入するべきだというアイデアが提示されています。シュワブはまさに「高原社会の高度をこれ以上高めようとするのではなく、この高原社会を、私たちにとってより幸福なものにする方向へ転換しよう」と呼びかけているのです。ここに「新しい人間観・社会観」が求められることになります。

 

すでに指摘した通り、私たち日本人をはじめ、特に先進国と呼ばれる高度産業社会に生きる人々は、生存のための物質的な不足の克服という課題をほぼ解消しました。私たちはこれから、近代以来、私たちの社会を苛み続けた「無限の成長・拡大・上昇を求める圧力」が、徐々に減圧されていく新しい時代を生きることになります。

 

この新しい時代において、私たちは、これまで私たちが依拠してきたさまざまな規範が次々と解体されていく様を目にすることになるでしょう。

 

近代から続いている上昇の放物線の慣性のうちにあって、無限の成長が続くということを当たり前の前提として考えている人たちにとって、成長の完了した「高原状態」の社会は、刺激のない、停滞した、魅力のない世界のように感じられるかもしれません。ここに、私たちが向き合わなければならない本質的な課題があります。

 

真に問題なのは「経済成長しない」ということではなく「経済以外の何を成長させれば良いのかわからない」という社会構想力の貧しさであり、さらに言えば「経済成長しない状態を豊かに生きることができない」という私たちの心の貧しさなのです。

 

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

 

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プレジデント社

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