2018年の笹川スポーツ財団の調査によると、年に1回以上ジョギングやランニングを実施する人の割合は9.3%とのこと。ここから推計される日本のランナー人口は900万人以上と言われています。ランニングを習慣的に行っている人、すなわち週1回以上行うという人に絞っても、その数は500万人超。健康志向が定着した昨今、日常的にランニングにいそしむ人は決して少なくないようです。ランニングを始めたこと、あるいは熱心に取り組んだことがきっかけでひざを痛めてしまったという話はよく聞きます。今回は、ランナーによく見られるひざの外側と内側の痛みの原因、対処法について、神戸ひざ関節症クリニックの長谷川良一院長に解説いただきました。

ひざ外側の痛みの原因は「腸脛靱帯炎」の可能性が大

ランニングを習慣的に行っていて、ひざの外側が痛むという方は、腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん)が疑われます。

 

腸脛靱帯炎とは

腸脛靱帯は、太ももの筋肉(大腿筋膜張筋)からひざの外側を経由して脛骨の上部まで伸びている、細長い靭帯を指します。この腸脛靱帯と、ひざの外側にある外側上顆という骨が、ひざの曲げ伸ばしに際して強く擦れ、炎症を起こした状態が腸脛靱帯炎です。

 

腸脛靱帯と外側上顆が擦れるのは、腸脛靱帯の根元部分にある大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)という太ももの筋肉が過度に緊張し、腸脛靱帯を引っ張り上げて張り詰めた状態にしてしまっているためと考えられます。

 

■腸脛靱帯炎の発症メカニズム

 

 

腸脛靱帯炎の症状

ひざの曲げ伸ばし、歩いたり走ったり、階段の上り下りの際などにひざの外側に痛みを感じます。悪化すると体重をかけただけで痛みを感じることもあります。ひざをよく使う人に多く見られますが、特にマラソンランナーで多く見られることから「ランナー膝」とも呼ばれています。

 

■腸脛靱帯炎の判別方法

 

腸脛靱帯炎の治療法

この症状が起こる1番の原因はオーバーユース(使いすぎ)なので、まずは患部の安静を図ってください。ランニングもしばらくは休止する必要があります。その上で患部のアイシングを徹底し、緊張している大腿筋膜張筋や臀部の筋肉をほぐしていきます。また、必要に応じて超音波などの物理療法、消炎鎮痛剤の投与などを検討します。

 

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ひざの内側が痛いときは「鵞足炎」を疑う

鵞足炎(がそくえん)もまた、ランナーなど膝をよく使う人に多く見られます。ひざの内側が痛む場合は要チェックです。

 

鵞足炎とは

鵞足とは膝の内側、脛骨の上部を指します。ここには縫工筋(ほうこうきん)、薄筋(はくきん)、半腱様筋(はんけんようきん)といった筋肉が腱となって付着しており、その形は鳥(鵞鳥:ガチョウ)の足に似ています。こうしたことから、この部位は「鵞足」と呼ばれています。鵞足炎は、この鵞足部に生じた炎症です。

 

鵞足を構成する筋肉(縫工筋、薄筋、半腱様筋)に疲労が蓄積していたり、柔軟性が低下していたりするとリスクが高くなります。

 

■鵞足の略図

 

 

鵞足炎の症状

鵞足部(ひざの内側やや下方)に痛みを感じます。初期に痛みが増すのは、押した時や運動時(歩く、走る、階段を下るといった動作時)などです。屈伸時に引っかかるような違和感もあります。

 

重症化すると何もしていなくても疼くような痛みを感じることがあり、腫れ、熱感を伴うこともあります。

 

鵞足炎の治療

主な原因はオーバーユースなので、まずは患部をアイシングし安静に保ちます。ランナーの方であれば、しばらくランニングは休止し、ハムストリングス(腿の裏側の筋肉)や内転筋のストレッチをされることをお勧めします。これらに加えて、必要に応じて薬物療法(抗炎症薬)や理学療法を検討します。

 

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中高年ランナーのひざ痛は変形性膝関節症も疑うべし

中高年の方がランニング中にひざを痛める原因を詳しく調べてみると、実は変形性膝関節症だったということが少なくありません。変形性膝関節症と他の疾患では対処法も大きく異なりますので、特に中高年のランナーでひざの痛みを感じるという方は、ぜひ整形外科できちんと診断してもらうことをお勧めします。

 

変形性膝関節症と診断された場合は、医師と相談した上で、もしランニングを続けるならひざへの負担を最小限に防ぐことを念頭に慎重に行なってください。

 

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ランナーのひざ痛解消のための新たな選択「再生医療」

いろいろな治療を受けたのに症状の改善が見込めない、大会などが目前に迫っていて早く治療成果を得たいという方には再生医療という選択肢も考えられます。

 

膝に対して行われるバイオセラピーとしては、現状ではPRP療法や培養幹細胞治療などが実用化されており、現実的な選択肢になり得ます。当院でも、これらバイオセラピーをご提供しておりますので、ご興味のある方は一度ご相談ください。

 

新しい治療法ということもありデメリットやはっきりわかっていないこともないわけではありません。ただ、当院の1万例以上の実績を見ても、少なくとも安全性は高いと考えています。現状でわかっている情報を詳しくご説明し、適切なご判断ができるようサポートさせていただきます。

 

 

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