「駅裏一等地」を狙った奇策で…インドネシア不動産の攻略法

宗吉敏彦はリーマンショックに巻き込まれ650億円の負債を抱えて倒産。いったん経済の表舞台から姿を消した。リーマンショックで地獄に堕ちた男はアジアで再起のチャンスをいかに掴んだのか。宗吉とともに躍進するアジア不動産市場の潜在力と今後の可能性を探る。本連載は前野雅弥、富山篤著『アジア不動産で大逆転「クリードの奇跡」』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

移動手段は富裕層が車、中間層は鉄道、バス

ジャボデタベック(Jabodetabek、ジャカルタ、ブカシ、ボゴール、デポック、タンゲランの5都市)と呼ばれるジャカルタ都市圏とその周辺のエリアでの公共交通網の整備がそれで、地下鉄や都市鉄道であるMRT(大量高速輸送鉄道)やモノレールなどの軽量鉄道であるLRTの整備に大量の財政資金が投下され、工事が急ピッチで進む。

 

「これが途絶えない限り長期的にみればインドネシアの不動産市況は崩れない」

 

確かにジャボデタベックは人口3000万人超とアジアでは東京に次ぐ世界最大級の都市圏。ここで公共交通網が整備されれば、都市の構造がどんどん変わり、マンション立地が周辺部や近郊都市に広がっていく。なかでもジャボデタベックの中核であるジャカルタでは、移動手段は富裕層が車、中間層はバイクや乗合バスで「世界最悪の渋滞都市」といわれたが、これに鉄道が取って代われば渋滞は大幅に緩和され、中心部のみだったマンション立地は、鉄道の延伸とともに周辺部にも広がるのは当然の帰結だ。

 

「これはバンコクがそうだった。10~15年程度の都市の発展段階の時差を伴ってジャカルタも必ずそうなる」と宗吉は言う。

 

その兆しはある。 ジャカルタの中心地から南西に約24キロ離れたセルポン。中心地のオフィスまで車なら朝のラッシュ時は2時間、日によっては2時間半かかる。そのセルポンが今、大きく変わろうとしている。その起爆剤の1つがインドネシアの大手財閥シナルマスが手がける大型都市開発エリア「BSDシティ」、そしてもう1つが宗吉がこのBSDシティのちょうど反対側で手がけるマンション開発プロジェクトだ。

 

〝裏〟を攻める奇策が奏功

 

プロジェクトの起点はKAI(国有鉄道)チサウク駅。チサウク駅の列車の乗り入れを眺めていると現地で製造した車両と、時折、日本の地下鉄千代田線を走っていた緑色の車両が入り交じるが、その電車に乗ると40分程度でジャカルタの中心地まで通える。

 

もともと古くからある鉄道で、車両はどれもおんぼろでスピードも遅い。「低所得者の乗り物」のイメージが強く中間層以上は「乗ったこともない」という人が多かったが、1990年代に行われた電化とそれに伴うスピードアップがジャカルタ中心部への「通勤の足」として見直されるきっかけとなった。宗吉はこの利便性に目を付けた。

 

チサウク駅の北側でインドネシアの大手財閥、シナルマスが進めるプロジェクトは約6000ヘクタールの土地の開発。1989年から住宅のほかオフィスや商業施設などの複合開発を進めている。しかし、さすが大手財閥の仕事だ。手がける住宅は富裕層向けが大半だった。この層はKAIはまず使わない。高級車であまり時間を気にせず出社できる富裕層たちだ。この層向けに高級住宅を建設、分譲していた。環境は抜群だった。

 

だからチサウク駅の目の前にありながら、その電車で通勤するような一般の人たちはシナルマスのビジネスの対象からはこぼれ落ちていた。宗吉はこれを見逃さなかった。「セルポンは変わる」。2018年、地元の中堅デベロッパー、カリヤ・チプタグループ、土地所有者と組み、セルポンでジョイントベンチャーを仕掛けたのだ。

 

うまかったのはチサウク駅の南側を攻めたことだ。安全策をとなるなら、シナルマスが開発を進める北側のエリアで、中間層向けの住宅開発を進める方がリスクの低い選択肢だったかもしれない。実際、イオンモールや大手デベロッパーの東急不動産も、セルポンが巨大なベッドタウンになると見て北側に進出していた。しかし、宗吉はそうはしなかった。

クリードグループ 代表

1965年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、伊藤忠商事に入社。不動産開発やコーポレートファイナンスに従事したのち、1996年クリードを設立。
当時の国内不動産業界で一般的でなかったDCFの概念を取り入れた不動産投資・評価にいち早く着目し事業をスタート、私募不動産ファンド・REIT運用等を手がける。
2012年からは、マレーシアを皮切りに本格的に東南アジアでの不動産投資に着手。現在、シンガポールに拠点を移し、マレーシア、カンボジア、ミャンマー、バングラデシュ、ベトナムで事業を展開している。

著者紹介

日本経済新聞 記者

東京経済部で大蔵省、自治省などを担当後、金融、エレクトロニクス、石油、ビール業界等を取材。現在は医療、不動産関連の記事を執筆。著書に『田中角栄のふろしき』(日本経済新聞出版社)がある。

著者紹介

日本経済新聞 記者

2014年よりハノイ支局長としてベトナム全般を取材。現在は日経産業新聞の海外面デスクを務める一方、外国人労働者問題、ASEANなどを取材。著書に『現地駐在記者が教える 超実践的ベトナム語入門』(アスク出版)がある。

著者紹介

連載リーマンの敗者、沸騰するアジアの不動産市場で奇跡の復活

アジア不動産で大逆転「クリードの奇跡」

アジア不動産で大逆転「クリードの奇跡」

宗吉 敏彦 前野 雅弥 前野 雅弥

プレジデント社

クリードの奇跡の主人公、宗吉敏彦は、2009年1月9日、リーマン・ショックに巻き込まれ650億円の負債を抱えて倒産。いったん経済の表舞台から姿を消したものの再びアジアで復活したかと思ったら、世界的な新型コロナウイルスの…

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