こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

異なる文化、異なる世代、異なる場所の人の話を聞く

普遍的価値を見つけるために異なる考え方をする人たちと交わる

 

自分と似たような経験をしてきている人たち、自分と同じような考え方を持つ人たちのみと交流し、一緒に働くことは、仕事を進める上で一見、理に適っていると思うかもしれません。しかし、結局それは「エコーチェンバー現象」に陥ることになります。つまり、閉じたコミュニティの内部にいて、自分と似たような意見を持った人々の間でコミュニケーションが行われても、結局は同じ意見がどこまでも反復され続けるだけです。

 

それとは反対に、自分とはまったく異なる文化、異なる世代、異なる場所にいる人の話を聞き続けることで、自ずと「世界共通の普遍的な真実、普遍的な意見というものがある」ことを発見するでしょう。すると、この地球や世界のどの場所にいてもコミュニケーションをすることが可能ということがわかります。

 

私も世界各地を訪れましたが、「自分たち世代だけが快楽を享受して、次の世代には地球が破壊されてしまっても構わない」とか「地球をぶっ壊してやろう」などという意見は、聞いたことがありません。みな次世代のことを考えています。その意味で、「持続可能な開発目標(SGDs)」は、誰もが納得できる価値観だと思います。

 

そういった普遍的な価値観が存在する一方で、先の「米台防疫ハッカソン」のときのアメリカ人の意見のように、私には到底受け入れられない考え方も存在します。つまり、救急医療のような私たちが慣れ親しんだものについて、台湾において、また日本でも、先に受け入れた急患から順に治療を施していくものと考えています。

 

しかし、先のアメリカ人は、「今後、社会への貢献度がどれだけ残っているか」を判断基準にするべきだというのです。それが正しいとか間違っているというのではなく、「そうした考え方がある」ということも知っておく必要があります。

 

たとえ自分は受け入れられないとしても、こうした異なった価値観や考え方があるということを知っておくことが、大事なのです。そういった知識がなければ、どんな考え方でも、それぞれのグループに属する人たちは、自分たちの振る舞いを自然なものだと思い、疑うことをしなくなるからです。それは創造力を閉ざしてしまうことにもつながります。

 

世界をくまなく旅しなければ、どこの人たちの考え方が不自然で、どこの人は自然であるという意見があるのも、わからないわけではありません。ただし、現在はAIが発達し、機械翻訳が実現しつつあるため、インターネットを通じて世界中の友人たちと容易に理解し合うことができるようになっています。そうしたものも利用しながら、自分が行くことが可能な範囲内で旅をし、その中からできる限り自分の文化やこれまでの人生経験とは異なるような友人を見つけ、彼らの話を聞けばいいのだと思います。

 

私は三つの幼稚園、六つの小学校、一つの中学校で学びました。それらは決して意図したわけではないのですが、毎年のように異なる環境に身を置いていました。その結果、世の中にはいろいろな人がいて、いろいろな意見があることに自然と気づいたのです。それは自分の思考に良い働きをもたらしていると実感しています。

 

あらゆる問題は人間から起こります。そして、そうした問題を解決に導くために、AIを役立てていくことができる時代になりました。その前提として必要になるのが、「プログラミング思考」「アート思考」「デザイン思考」といったデジタル時代における必須の思考方法であり、さらにそのベースとなるのが「自発性」「相互理解」「共好」という三つの素養なのです。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

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