定年前後はお金に関する様々な誘惑があり、危険な罠にはまって老後破綻に陥る人も多いです。しかし、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを知っておけば、老後のお金の不安は解消できます。今回は、60歳で定年退職した元部長が、1年で退職金の1800万円をほとんどを使い込んでしまった話です。※本連載は、山中伸枝氏の著書『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

60歳の元部長「退職金1800万円」の使い道は?

Aさんは中堅企業の部長さん。この会社には役職定年制度がなかったので、部長という肩書のまま60歳で定年を迎えました。

 

退職日の数週間前から毎晩のようにご苦労さん会が開かれ、退社日当日は立派な花束が手渡され、大勢の部下に見送られて、大学を卒業してから38年間、働き続けた会社を後にしました。

 

再就職の話はもちろんあったのですが、Aさんはそれを断りました。いままで38年間、平日はもちろんのこと、土日も取引先との接待ゴルフ漬けの日々だったので、これまで苦労をかけてきた奥様孝行をしながら、しばらく自分自身の英気を養おうと思ったのだそうです。

 

ちなみに退職一時金の額は、中堅企業としては恵まれているほうで、1800万円が支給されました。Aさんは、退職金が振り込まれた預金通帳を見て、こう思ったのだそうです。

 

「本当によく働いてきた。退職金でまとまったお金も手に入ったことだし、いろいろやりたいこともある。まずは妻と船旅だ。会社が定年祝いでくれた退職金だ。ここは豪華に100万円くらい使おう。

 

あとは家の改修だ。水回りがそろそろ傷んできたし、これから年を取ったときに備えてバリアフリーにしておきたい。どれくらいの予算になるのだろう。500万円くらい見込んでおくか。

 

それで残ったお金は、これからの生活費の足しにしよう。しばらくしたら働き始めるし、そうすればまたお金が入ってくるから、これで老後は乗り切れるはずだ」

 

計画は着実に実行されていきました。豪華客船の旅は日本近海を9泊10日で巡るというもの。スイートの部屋を取り、2人分のクルーズ代金は当初の予算を少しオーバーして130万円でした。

 

船旅から戻ってくると、今度は自宅のリフォームです。高齢になっても住み続けられるよう、バリアフリー化するのが目的でした。この工事にかかった金額が700万円でした。これも予算オーバーでしたが、いずれ働けば収入が入ってくるので大丈夫とAさんは思っていて、気にも留めていませんでした。

 

ついでに、予算外の行動もとり始めました。新しい車を買おうと考えたのです。いまの車はかれこれ 10年選手。これからも乗り続けるには、故障などが気になるところ。いっそのこと新車に乗り換えようと考えました。

 

奥様も、あまり無駄な出費はしたくなかったものの、これまで長年、大変な思いをして働いてきたのだから、退職金くらい自分の好きなように使わせてあげようという仏心が出て、Aさんの暴走にストップをかけなかったそうです。

 

新車は、子供がいるときには乗れなかった、スポーツタイプを選びました。近所の人たちからは「若々しくて素敵ですね」と言われ、鼻高々のAさん。このスポーツカーを購入するのに、なんと500万円をキャッシュで支払ったそうです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

さて、豪華客船の旅に130万円。自宅のリフォームに700万円。そして新車購入に500万円ですから、これで合計1330万円が消えました。

 

Aさんの退職一時金の額はいくらでしたっけ?

 

1800万円ですね。そこからこれまで支払った額が1330万円ですから、残りは470万円です。さすがにちょっと使いすぎたかなと思ったそうですが、これから一所懸命に働くので大丈夫だろうというのがAさんの読みでした。

 

でも、十分すぎる骨休めをしたAさんが、再就職のために就職活動を始めたのは、定年退職してから1年が経過していました。いくら履歴書を送っても、返ってくるのは「ご希望に添うことができず申し訳ございません」という、丁寧なお断りの返事ばかり。Aさんは段々焦ってきました。

 

前の職場を定年退職して1年間、何もしていなかった61歳の管理職経験者を雇う会社なんて、そうそうありません。ようやく1社、面接に漕ぎつけた会社の面接で、Aさんはこう質問されました。

 

「いままでどのようなお仕事をなさってきたのですか?」

 

Aさんは堂々と答えました。「はい。長年にわたって部長を務めてまいりました」

 

チーン。終わりです。会社が知りたかったのは、Aさんがどんな専門性を持っているのかであって、どんな役職を務めてきたのかではありませんでした。

 

当然、この会社からも丁寧なお断りの返事が返ってきました。退職金はほぼ底をつき、再就職も思うようにいかないAさんの運命は、これからどうなってしまうのでしょうか。

 

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