診断基準変更、認知度の向上が増加の大きな要因か
なぜこれほど、発達障害とされる子どもが増えているのでしょうか。
ひとつには、発達障害の診断基準が変更されたことで、該当する子どもの割合が増えたことが挙げられます。かつては、広汎性発達障害という上位概念のもとに、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などの下位分類が存在していました。しかし、DSM‒5以降、症状の軽い状態から重度の状態までをスペクトラム(連続性)としてとらえる ASDという概念に統一されたために、該当する人の割合が増えたと考えられます。
しかし、それ以上に大きな要因としては、発達障害が多くの人に認識されるようになったことが挙げられます。
日本の場合は、2005年に発達障害者支援法が施行されたことにより、医療関係者のみならず、保健・福祉の関係者や教育関係者に発達障害が広く知られるようになりました。
保育士や幼稚園教諭、小学校の教員などの間に発達障害の知識が広まると、かつては「わんぱくな子」「落ち着きのない子」などとされてきたような子どもたちが、発達障害なのではないかといわれるようになったのです。保護者に対して「発達障害の可能性があるので病院を受診してみてはどうか」と勧める先生も増えました。
また、発達障害に関する書籍も格段に増え、インターネット上にも情報が溢れているので、保護者が自分の子どもは周囲の子どもたちとどこか違うと感じたときに、情報にアクセスしやすくなったことも関係しているでしょう。
ためしに検索エンジンで「発達障害」と入力して検索してみると、発達障害のチェックテストや病院検索の機能を含む広告が、目に付くところに表示されます。自分の子どもに育てにくさを感じていて、チェックテストをしてみたら発達障害の可能性が高いとなれば、病院へ診察を受けに連れて行ってみようと考えるのが自然な流れではないでしょうか。
発達障害の疑いがある子どもの受診率が上がれば、今まで見落とされていた子どもが、発達障害の診断を受けることになります。したがって、発達障害とされる子どもの数が増えるというわけです。
「発達障害の子ども」にとって生きづらい現代社会
これ以外に日本特有の要因として、社会の許容範囲が狭くなったということも挙げられます。
以前の日本であれば、「活発でやんちゃな子」「突拍子もないことをするわんぱくな子」などと受け止められて、とくに問題にされなかったような子も、今の日本ではおとなしくお利口に振る舞うことを求められます。おとなしくできなければADHDなのではないか、などと疑いの目を向けられてしまうのです。
かつての日本には「童技(わらべわざ)」という知恵がありました。元服して大人になるまでの童の間は大人が思いもよらないようなことをするけれど、童でなくなる頃には落ち着くから放っておきなさい、というものです。このように、子どもに対して社会がおおらかだった時代に比べ、今の日本社会は発達障害の子どもにとって生きづらいのです。
発達障害の特性を備えていたとしても、社会で生きていくうえで困りごとがなければ、それは「個性」であって「障害」とはされません。発達障害とされる子どもが増えている背景には、子どもをとりまく環境の変化が深く関わっているのです。
大坪 信之
株式会社コペル 代表取締役
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